困ったときの交通事故Q&A
気になること、サクッと解説
交通事故において気になるポイントを弁護士が1問1答方式で解説します。
もっとも、ここでの回答はあくまで一般論であり、事案によっては紹介されたものと異なる結論となる場合もございますので、詳しくはご相談下さい。
クエスチョン一覧
クエスチョンごとの内容をクリックすると、対象の箇所にジャンプできます。
①総論について |
②人身的損害(人身)について |
③物質的損害(物損)について |
④その他について |
①総論について
Q①-1:交通事故の加害者が負い得る法的責任を教えてください。
A:加害者は、刑事上・行政上・民事上の法的責任を負います。
簡潔にポイントをまとめると、(1)~(3)のとおりとなります。
(1)刑事上の責任:懲役や罰金などの刑罰を受けること
(2)行政上の責任:運転免許の取消しや停止など処分を受けること
(3)民事上の責任:不法行為に基づく損害賠償責任を負うこと
Q①-2:保険会社のテレビCMなどで「示談交渉」という言葉をよく聞きます。示談交渉とは何ですか?
A:裁判や裁判外紛争解決手続を用いず、当事者間で行われる話し合いで解決する方法です。
Q①-3:ADR(裁判外紛争解決手続)には複数の種類があると聞きましたが、それぞれの特徴を教えてください。
A:ポイントをまとめると以下のとおりとなります。
|
日弁連交通事故相談センター |
交通事故紛争処理センター |
各弁護士会の民事紛争解決センター |
紛争処理手段 |
示談あっせん、審査 |
和解あっせん、審査 |
和解あっせん、仲裁 |
期日回数 |
原則3回 |
3~5回程度 |
3回程度(3ヶ月) |
場所 |
全国163ヶ所(示談あっせんは41ヶ所) |
全国11ヶ所 |
各弁護士会 |
手数料 |
無料 |
無料 |
申立手数料1~2万円程度 |
担当者 |
弁護士 |
弁護士 |
弁護士、専門家 |
あっせんが不成立となった場合 |
一定の共済が加害者を代行している事案については、被害者から審査申出が可能。加害者からの申出については、被害者の同意が必要。 |
当事者双方が審査申立て可能。保険会社からの申立てについては、被害者の同意が必要。 |
原則として手続が終了。 当事者の仲裁合意により、例外的に仲裁手続に移行可能。 |
Q①-4:どのような場合にADRを利用するのがよいのでしょうか?
A:以下のような場合に利用すると良いです。ただし、複雑な後遺障害や過失割合で争っている場合の係争については、司法に委ねる方が好ましく、ADRにはなじまないと考えた方が良いでしょう。
- 交渉段階ではどうしても赤本基準満額の慰謝料を引き出せない場合で、依頼者の意向が強い場合
- 加害者側は一定の賠償義務を認めているが、個人事業主の休業損害の認定など議論が有り得る部分で保険会社との溝が埋まらない場合
- ドライブレコーダー映像や刑事記録など客観的な証拠はあるが、保険会社との間で過失見解に齟齬がある場合
Q①-5:示談交渉、ADR以外に当事者の合意に基づく解決方法はありますか?また、その特徴を教えてください。
A:調停(交通調停事件)があります。
Q①-6:示談交渉、ADR、調停で合意に至ることができず、訴訟を提起することを考えています。訴訟提起のメリットとデメリットを教えてください。
A:終局的・実効的に解決できたり、保険会社の提示額からの増額が期待できたりするケースもありますが、訴訟費用がかかったり、かなりの時間を要する場合があったりと、一定のデメリットも存在します。
Q①-7:交通事故について調べていると「損益相殺」という言葉をよく目にします。損益相殺とは何ですか?
A:被害者が交通事故により損害を被るとともに利益を受けた場合に、損害賠償額からその利益相当額を控除することをいいます。
Q①-8:「損益相殺」と「過失相殺」の違いは何ですか?
A:どちらも、公平の見地から行われる減額調整ですが、損益相殺が「被害者が不法行為によって損害を被った一方で、何かしらの利益を得た場合に、その利益を損害から控除する」という調整であるのに対し、過失相殺は、「不法行為の被害者にも一定の落ち度があるという場合に、双方の過失を割合的に把握し、損害賠償額を減額する」という調整であるという違いがあります。
Q①-9:加害者が任意保険に加入していないのですが、自分の補償はきちんと受けられるのでしょうか?
A:加害者が自賠責保険に加入していれば、その範囲内で補償が受けられますが、上限があることに注意しましょう。また、自分が加入する任意保険で利用できるものがあるかもしれません。
Q①-10:交通事故で被害に遭い、損害賠償を求めて裁判を起こそうとしているのですが、請求原因について、民法709条や710条に基づく請求と、自賠法3条に基づく請求では具体的に何が違うのでしょうか?
A:立証責任者と、請求できる相手に違いがあります。
Q①-11:自分が歩行者で事故に遭いました。信号のある交差点を相手が赤信号時に進入してきたのですが、自分も信号が黄色の時に渡ってしまったため、自分の怪我などに関わる損害額から10%の過失相殺がされると言われました。相手の車両は、自分を轢いた後に電柱に衝突してしまい、車も損傷しているのですが、この場合、相手車両の修理費の10%を負担しないといけないのでしょうか。
A:ご自分の損害額になされた過失相殺率が、必ずしも物損に対して適用される訳ではありません。「歩行者」である貴方に課される責任と、「車両の運転者」である相手に課される責任の本質が異なりますので、物損については、事案ごとに過失相殺率とは別に様々な判断がなされることが多いでしょう。
②人身的損害(人身)について
Q②-1:人身事故における主な損害項目を教えてください。
A:一例として、入院の有無、後遺障害の有無等によりいくつかに類型化することができます。
詳細は、「もっと詳しく」をご覧ください。
Q②-2:交通事故証明書が「物件事故」となっているのですが、治療費や慰謝料の請求は可能なのでしょうか?
A:怪我と事故の因果関係が認められれば請求は可能ですが、一部注意が必要です。
Q②-3:自転車に礫かれて怪我をしました。自動車事故と比べ、自転車事故の加害者は無保険の可能性が高いと思います。加害者から損害賠償金を回収することはできるか不安です。
A:TSマーク(自転車向け保険)の有無を確認しましょう。また、個人賠償保険において、自転車事故についてもオプションとして特約が付されている場合があります。
Q②-4:保険会社の「一括対応」とは何ですか?保険会社がこのような対応をする必要性とは何でしょうか?
A:加害者側保険会社が、直接医療機関や接骨院へ被害者の治療費を支払う制度です。理由としては、
①被害者の救済のために、保険会社が内払いを履行するという点
②その一方で、一括対応によって月ごとの治療に関わる診断書・診療報酬明細書を予め確認することで、不適切な治療、特殊な治療が行われていないかを早期発見すること及び、適切な治療の終了時期を決定するという点
が挙げられます。
Q②-5:『交通事故の怪我の治療として、労災保険や健康保険を利用すべき場合とは、どのような場合なのでしょうか?』
A:過失相殺が予定されている場合や、相手が無保険者の場合、ひき逃げなど加害者が不明であったり自賠責保険にも加入していなかったりするような場合です。
Q②-6:交通事故の治療で健康保険を利用するためには、どのような手続きをする必要があるのでしょうか?
A:まずは、治療先の医療機関に健康保険を利用することを伝えて下さい。そのうえで、ご自分の健康保険組合に連絡し、必要書類を取り寄せ、作成をする必要があります。
Q②-7:交通事故の怪我の治療で健康保険を利用しようとしたら、「うちでは交通事故の治療で健康保険は使えない」と言われてしまいました。この場合は、自費通院または自由診療をせざるを得ないのでしょうか?
A:厚生労働省保険局保険課長通達にて、交通事故の際には健康保険が利用できることがきちんと周知されています。どうしてもできない場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。
Q②-8:交通事故の怪我で通院していましたが、相手の保険会社からある日突然「そろそろ〇ヶ月経つと思うので、一括対応を打ち切る」と言われてしまいました。自分としてはまだ病院に通いたいのですが、どのようにすればいいのでしょうか?
A:具体的に「あと何ヶ月は通いたい」というような期限を区切った延長交渉をするか、交渉が難しければ、治療費を抑えるため、健康保険等に切り替えて通院を続けるとよいです。
Q②-9:車を運転していて信号待ちをしている最中に、突然前方の車がバックして追突してきました。むち打ちで通院したいのですが、相手の保険会社から「低速度での追突だから、怪我をするのは有り得ない。治療費は支払えない。」と言われてしまいました。このような場合、どうすればよいでしょうか。
A:受傷の妥当性を後に争うこととなります。裁判はほぼ必至となりますが、解決するまでは自己負担は免れないので、健康保険(場合によっては労災保険)等を利用し、自己負担額を抑えるようにしましょう。
Q②-10:交通事故により配偶者を亡くし、精神的苦痛を被りました。慰謝料としてどの程度請求することができますか?
A:被害者(本人)の慰謝料と、被害者の死亡による近親者の精神的苦痛に基づく慰謝料とをある程度一体的に考える必要があります。
Q②-11:怪我の治療として、整骨院に通おうと思うのですが、何か問題はあるでしょうか?
A:整形外科等の診察は必ず続けましょう。
Q②-12:事業所得者の休業損害は、どのようなものが認められるのでしょうか?
A:現実の収入の減少があった場合には認められますが、算定方法には注意が必要です。
Q②-13:仕事をしておらず、家事を行ういわゆる家事従事者が交通事故に遭い、怪我の痛みや治療のために、ほとんど家事ができていないような場合にも、特別な損害の請求はできないのでしょうか?
A:家事従事者として、休業損害を請求することが可能です。
Q②-14:有給休暇を使った場合にも、休業損害は請求できるのでしょうか?
A:請求することができます。
Q②-15:無職の人は休業損害を請求できないのですか?
A:基本的には請求できませんが、例外はあります。
Q②-16:日本で就労している外国人が事故に遭った場合、休業損害や逸失利益の基準は日本になるのですか?
A: 在留資格の種類等によっては、国籍国の賃金が基準となることがあります。
Q②-17:後遺障害等級14級9号と12級13号は、ともに「神経症状を残すもの」とされていますが、具体的に何が違うのでしょうか?
A:「神経学検査所見や画像所見などの“他覚的所見”があるかどうか」です。
Q②-18:労働能力の喪失が争われる後遺障害には、どのようなものがありますか?
A:瘢痕障害、外貌醜状、鎖骨や脊柱の変形といった骨の変形障害などがありますが、影響の度合いは障害の程度や職業の内容などにより判断されますが、等級通りの労働能力喪失率にはならない場合があります。
Q②-19:後遺障害の等級がついても、減収が無いことにより労働能力の喪失が認定されず、逸失利益の請求が拒否されるというケースはあるのでしょうか?
A:原則は、現実に減収が発生していなければ、労働能力の喪失を理由とする財産の損害は請求できないとされていますが、収入の減少がなくとも、将来の昇給・昇進・昇格に影響があったり、収入の減少を防ぐ努力等を本人がしていると認められる場合は、逸失利益が認定される傾向にあります。
Q②-20:被害者請求を行ったのですが、結果は非該当となってしまいました。この結果に対し、異議申立をしたいと思うのですが、どのようなものを提出するとよいのでしょうか?
A:神経学的所見の推移を証明した書類や、愁訴の一貫性を証明する書類、また、後遺障害の存在に伴う収入減少の裏付け資料や、日常生活動作の不具合などを主張した陳述書などが例として挙げられます。また、事故の衝撃を客観的に証明するものとして、事故車両の写真や修理見積書など、物損事故の程度を示す資料も有効です。
Q②-21:私には第3頸椎の脊柱管狭窄があります。このことが原因で保険会社から「素因減額をする」と言われました。素因減額とは何ですか?脊柱管狭窄があると、必ず減額されなければならないのでしょうか?
A:被害者側の事情によって損害が発生又は拡大した場合に、加害者に損害全部を負担させるのは衡平でないことから、損害額の一定の減額を図る考えです。実際に脊柱管狭窄があれば、素因減額は避けられない場合が多いですが、そもそも脊柱管狭窄なのかどうか、疾患には当たらない程度なのかどうか、医師の詳しい検査による判断が必須です。
Q②-22:加害者と示談をしたのですが、後になって後遺症が判明しました。この場合、追加治療費や慰謝料等についてはもう請求できないのでしょうか?
A:契約とはいえ、示談も絶対ではありません。
Q②-23:保険会社から、賠償額の提案があったのですが、「裁判基準(赤本基準)の8割を提示します」と書かれています。この「8割」には、何か特別な決まりがあるのでしょうか?
A:単なる保険会社の内部規定に過ぎません。裁判をした場合の時間と手間を考えた上で、保険会社側から譲歩を促しているのですが、金額が妥当ではないと判断したら、ADRや裁判を通じて賠償を勝ち取りに行く姿勢が重要です。
③物質的損害(物損)について
Q③-1:車両修理費の見積もりに関し、留意すべき点はありますか?
A:修理費用が高額になった場合、相手方から「修理費が高すぎる(水増しだ)」との反論がなされることがあります。
Q③-2:車の修理代は、加害者側に請求することができますか?また、どのような場合に車を修理しなければならないのでしょうか?
A:適正修理額(常識的な範囲内での修理に伴う費用) であれば、請求は認められます。ただし、過剰な修理は許されません。また、修理が相当かつ可能な場合には、買替えではなく修理をする必要があります。
Q③-3:車が壊れてしまったので代車を頼みたいのですが、加害者に代車料を請求できますか?
A:自家用車については難しい場合が多いですが、交渉の余地はあります。
Q③-4:物損の時によく聞く「経済的全損」とは何ですか?また、どのような時に問題となり得るのですか?
A:事故車両の時価額+買換諸費用と修理費用を比較し、修理費用が上回る場合、所有者は修理費用を請求することはできず、時価額+買換諸費用を請求するにとどまる、というものです。年式が古い車、希少車種、工業用車両など、修理費が高額になることが予想される場合に問題となりますが、より正確な時価額算定が重要となります。
Q③-5:評価損や格落ちとは何ですか?
A:事故車両を「修理しても外観や機能に欠陥を生じ、または事故歴により商品価値の下落が見込まれる場合に認められる」(レッドブック参照)物損の請求費目のことです。
Q③-6:リースしている車両を使用していて事故に遭った場合、誰がどのような損害を請求できるのでしょうか?
A:車両の損害については、全損か部分損かによって分かれ、全損の場合は、事故車両の金銭的価値の評価に基づき、所有者であるリース会社が請求できますが、部分損で利用者が修理をした場合は利用者が修理相当額を請求できるとされています。また、場合によっては、リースの中途解約金や、事故車両の価値下落分を請求できる可能性もありますが、可否の判断は容易ではありません。
④その他について
Q④-1:友人の車に乗った際に事故に遭いました。友人は、一緒に乗っていた私にも責任があると言って損害の一部を賠償してくれません。友人の運転について、一緒に乗っていた私にも落ち度があるのでしょうか?
A:同乗していたこと自体は過失に当たりません。
Q④-2:私(相談者)は、停車中に2度、衝撃を受けました。まず、私の後方にいたX車に追突され、その勢いで私の前方にいたZ車に自車が衝突しました(第1事故)。その後、X車の後方にいたY車がX車に衝突し、X車に押し出される形で再び自車がZ車に衝突しました(第2事故)。しかし、Xは、「Y車に追突されて相談者に追突されたのであり、自分には責任はない。むしろ被害者だ」と主張し、またYも「X車衝突後にY車が衝突したのであるから、事故車両後部の損傷はXの責任だ。自分は前部のみ責任を負う」と主張します。当事者の主張に食い違いがありますが、どのように事実を把握するのでしょうか?
A:事故直後の車両の損傷部位を写真などで確認し、事故態様を推認することができます。
Q④-3:死亡事故の場合、葬儀費も加害者側に請求することができますか?葬儀費として250万円かかりましたが、全額を請求することができますか?
A:裁判例によると、葬儀費も交通事故の損害として賠償請求が可能ですが、支出した全額が常に認められるわけではありません。
Q④-4:相手の保険会社の対応が気に入りません。何とかして、解決する手段は無いのでしょうか?
A:上司や、カスタマーセンターに苦情を入れたり、諸保険会社の統括庁である金融庁や、一般社団法人日本損害保険協会(そんぽADR)などの第三者に苦情を入れたりする手段が有効です。ただし、なんでもかんでも苦情を入れて良いという訳ではありません。「普通は保険会社がやらないようなことをやっている」というような場合に限られるため、ある程度の相場観は必要です。