Q②-18:労働能力の喪失が争われる後遺障害

労働能力の喪失が争われる後遺障害には、どのようなものがありますか?

A:瘢痕障害、外貌醜状、鎖骨や脊柱の変形といった骨の変形障害などがありますが、影響の度合いは障害の程度や職業の内容などにより判断されますが、等級通りの労働能力喪失率にはならない場合があります。

後遺障害等級ごとに決められている障害にはさまざまなものがありますが、障害の内容によっては、労働能力の喪失には至らない、もしくは労働能力の喪失の程度は低いとし、等級ごとの労働能力喪失率より低い率となるケースもあります。

①瘢痕障害、外貌醜状

瘢痕とは、外傷ややけどの跡などのいわゆる傷跡です。外貌醜状とは、その瘢痕や組織陥没などが主に頭部、顔面、頸部など上肢下肢以外の日常露出する部分に残った状態をいいます。瘢痕障害については、瘢痕の残った部位、サイズにより12級~14級相当が認められる可能性があります。また、外貌醜状についても同じく、残った箇所と傷跡の程度により、7級12号~12級14号が認められる可能性があります。

いずれも、身体的機能そのものに支障を生じさせるものではないとして、労働能力喪失が否定されるかまたは大幅に割り込む傾向にありますが、程度と被害者の職業に応じ、どの程度影響があるのかどうかを個別的に判断すべきでしょう。例えば、モデル業や接客業など、見た目が決定的又は相応に重視される職業においては、瘢痕障害や外貌醜状が大きな影響を与えることは明らかです。また、ホワイトカラー、ブルーカラーを問わず、仕事の中で他人との交流及び接触はあるものであり、瘢痕障害や外貌醜状により、対人関係の構成維持や円滑な意思疎通の妨げになることは容易に想像し得ますから、いずれも具体的事案によって判断すべきでしょう。

②鎖骨変形、脊柱変形

鎖骨変形とは、交通事故時の鎖骨の損傷に伴い、著しい変形障害を残すものです。脊柱変形とは、脊柱が圧迫骨折や、破裂骨折、脱臼などにより変形障害を起こすものです。鎖骨変形については、『裸体になった際に明らかに分かる程度の著しい変形である』必要があり、12級5号が認められる可能性があります。脊柱変形については、変形の程度により、6級5号~11級7号が認められる可能性があります。

これらの骨の変形障害についても、一般には労働能力の実質的喪失がないと判断され、逸失利益が認められにくい傾向にありますが、例えば鎖骨変形は、裸体になった際に明らかに分かることが認定要件になっていますので、瘢痕障害や外貌醜状と同じように、見た目が重視されるモデル業や接客業においては、労働能力の喪失が認められる余地があるでしょう。そのほか、年齢、変形の部位や程度など様々な事情を考慮して判断されます。

 

①、②に共通することですが、そもそも瘢痕障害や外貌醜状、骨の変形が起こるほど衝撃の強い事故に遭っているのですから、他の部分の障害の残存も多いと言えます。神経症状(痛みの残存)があれば、そちらをもとに労働能力の喪失が肯定される余地もありますし、時には、醜状障害と疼痛(痛みの医学用語)障害が併合して、等級が繰り上がることもあります。しかし、その場合は、疼痛傷害のみで労働能力喪失率が判断される可能性もあります。

総じて、必ずしも、認定された等級通りの労働能力喪失率が認められる訳ではなく、被害者の様々な事情を考慮して個別的に判断されるということに注意してください。

 
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