Q②-18:労働能力の喪失が争われる後遺障害
Q:労働能力の喪失が争われる後遺障害には、どのようなものがありますか?
A:瘢痕障害、外貌醜状、鎖骨や脊柱の変形といった骨の変形障害などがあります。影響の度合いは障害の程度や職業の内容などにより判断されますが、等級通りの労働能力喪失率にはならない場合があります。
【前提知識】後遺障害と労働能力の喪失とは?
交通事故の怪我を懸命に治療したとしても、残念ながら完治には至らない場合があります。そのような場合、残った症状については後遺障害として認定される余地があります。後遺障害が認定されると、新たな請求項目として以下のものが請求できるようになります。
- 後遺障害慰謝料…後遺障害が残存したことによる精神的苦痛
- 後遺障害逸失利益…後遺障害が残存したことにより失われると考えられる将来の収入に対する補償
後遺障害というのは、基本的に半永久的に残るものであると考えられ、その障害によって日常生活や仕事に支障が生じたり、場合によっては職種が制限されたりすることが予測されます。そういったものを補償するのが後遺障害逸失利益です。
では、後遺障害逸失利益はどのように計算するかというと、
という計算式で行われます。
※このページでは労働能力喪失率にフォーカスを当てているので、ライプニッツ係数に関する説明は割愛します。
詳しく知りたい方は以下の記事をご参照ください。
⇒『交通事故の後遺障害とその認定手続について』
このうち、労働能力喪失率は、その後遺障害によってどの程度労働能力が失われたのかということを割合的に表します。労働能力喪失率は、基本的には後遺障害等級ごとに一律に定められています。例えば、後遺障害等級の中では一番軽いとされる第14級の場合は5%、第12級の場合は14%という具合です。
なお、後遺障害等級ごとに決められている障害にはさまざまなものがありますが、障害の内容によっては、労働能力の喪失には至らない、もしくは労働能力の喪失の程度は低いとし、等級ごとの労働能力喪失率より低い率となるケースもあるのです。
1.瘢痕障害・外貌醜状
瘢痕とは、外傷ややけどの跡などのいわゆる傷跡です。一方、外貌醜状とは、その瘢痕や組織陥没などが主に頭部、顔面、頸部など上肢下肢以外の日常露出する部分に残った状態をいいます。瘢痕障害については、瘢痕の残った部位、サイズにより12級~14級相当が認められる可能性があります。また、外貌醜状についても同じく、残った箇所と傷跡の程度により、7級12号~12級14号が認められる可能性があります。
いずれも、身体的機能そのものに支障を生じさせるものではないとして、労働能力喪失が否定されるかまたは大幅に割り込む傾向にありますが、程度と被害者の職業に応じ、どの程度影響があるのかどうかを個別的に判断すべきでしょう。例えば、モデル業や接客業など、見た目が決定的又は相応に重視される職業においては、瘢痕障害や外貌醜状が大きな影響を与えることは明らかです。また、ホワイトカラー、ブルーカラーを問わず、仕事の中で他人との交流及び接触はあるものであり、瘢痕障害や外貌醜状により、対人関係の構成維持や円滑な意思疎通の妨げになることは容易に想像し得ますから、いずれも具体的事案によって判断すべきでしょう。
2.鎖骨変形・脊柱変形
鎖骨変形とは、交通事故時の鎖骨の損傷に伴い、著しい変形障害を残すものです。脊柱変形とは、脊柱が圧迫骨折や、破裂骨折、脱臼などにより変形障害を起こすものです。鎖骨変形については、「裸体になった際に明らかに分かる程度の著しい変形である」必要があり、12級5号が認められる可能性があります。脊柱変形については、変形の程度により、6級5号~11級7号が認められる可能性があります。
これらの骨の変形障害についても、一般には労働能力の実質的喪失がないと判断され、逸失利益が認められにくい傾向にありますが、例えば鎖骨変形は、裸体になった際に明らかに分かることが認定要件になっていますので、瘢痕障害や外貌醜状と同じように、見た目が重視されるモデル業や接客業においては、労働能力の喪失が認められる余地があるでしょう。そのほか、年齢、変形の部位や程度など様々な事情を考慮して判断されます。
3.他の部分で後遺障害が認定される余地があるはず
1・2に共通することですが、そもそも瘢痕障害や外貌醜状、骨の変形が起こるほど衝撃の強い事故に遭っているのですから、他の部分の障害の残存も多いと言えます。神経症状(痛みの残存)があれば、そちらをもとに労働能力の喪失が肯定される余地もありますし、時には、醜状障害と疼痛(痛みの医学用語)障害が併合して、等級が繰り上がることもあります。しかし、その場合は、疼痛障害のみで労働能力喪失率が判断される可能性もあります。
総じて、必ずしも、認定された等級通りの労働能力喪失率が認められる訳ではなく、被害者の様々な事情を考慮して個別的に判断される場合があるということに注意してください。