Q②-2:物件事故でも治療費の請求はできる?

Q:交通事故証明書が「物件事故」となっているのですが、治療費や慰謝料の請求は可能なのでしょうか?

A怪我と事故の因果関係が認められれば請求は可能ですが、一部注意が必要です

交通事故証明書には、物件事故か人身事故かの別が記載されていますが、「物件事故」となっている場合でも、怪我をしているのであれば警察へ診断書を提出することで「人身事故」へ切り替えることが可能です。では、「物件事故」のままでは怪我に関わる損害の請求はできないのでしょうか
結論としては、怪我と事故の因果関係がきちんと認められれば、訴訟や保険会社への請求は可能です。加害者側の保険会社の担当者が「物件事故のままでもきちんと対応しますよ」と言ってくれる場合もあるので、まずは加害会社側の保険会社の担当に聞いてみるとよいでしょう。ただし、物件事故のままにしておくと、事故での怪我が軽微であることを推測させる要因となってしまいますそもそも怪我をしたのかどうかというところまで争われてしまう可能性もあるので、現に怪我をしているのであれば、「人身事故」への切り替えをおすすめします。

また、物件事故で処理されるデメリットとして、警察による実況見分が行われないという点も挙げられます。実況見分とは、事故の当事者や目撃者などが立ち会い、事故現場の状況を警察官が捜査することです。実況見分では、

  • 現場の状況確認
  • 道路上の衝突位置などの確認(タイヤ痕など)
  • 車両の損傷確認
  • 両当事者のお互いの具体的な視認具合などの聞き取り

などが確認され、最終的に事故現場の平面図に聞き取りによる認識位置などが記載されます。実況見分は専ら、事故後の通報時(当事者が救急搬送されているなどで不在の場合は後日に行われる場合もあります)に行われるので、事故状況を示す証拠としてかなり有用です。
一方、物件事故で処理する場合、基本的に刑事事件にはならず実況見分が省略されるため、実況見分調書も作成されません。代わりに物件事故報告書というものが作成されますが、現場図の作成などは無く、正直に言えば事故証明書とあまり大差ありません。実際怪我をしていないという場合にはしょうがないとして、事故態様や過失割合も争点になりそうである場合は、きちんと人身事故に切り替えて実況見分を行ってもらうことも大切です。

なかには、加害者側から「人身事故にされると免許の違反点数が付いてしまうから物件事故のままにしてくれないか」と言われた経験がある方もいらっしゃるかもしれません。人身事故とはつまり、交通事故によって相手に怪我をさせたことを意味する訳ですから、基本的に過失運転致傷罪という罪に問われ、行政処分として違反点数も付くことになります。一方、物件事故の場合には、基本的に行政処分上の交通事故にはあたらないため、違反点数の加算もありません。情けをかけるかどうかはお任せしますが、物件事故のまま処理する場合に上記のようなデメリットがあることを忘れずに。

 なお、「物件事故」の状態で保険会社の一括対応や自賠責保険への被害者請求を行う場合、「人身事故証明書入手不能理由書」というものが必要となります。一括対応の際には、保険会社から示談の際に用紙が送られてきますので、必要事項を記入して送り返せばよいでしょう。ただし、被害者請求時には、原則として、加害者の記名押印が必要となりますので、加害者と連絡が取れる状況を作っておくことが重要です。そうはいっても、いつでも加害者の協力が得られるとは限りません。非協力的な場合は、その旨を書類の中に明記しておきましょう。

 
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