Q③-4

物損の時によく聞く「経済的全損」とは何ですか?また、どのような時に問題となり得るのですか?

A:事故車両の時価額+買換諸費用と修理費用を比較し、修理費用が上回る場合、所有者は修理費用を請求することはできず、時価額+買換諸費用を請求するにとどまる、というものです。年式が古い車、希少車種、工業用車両など、修理費が高額になることが予想される場合に問題となりますが、より正確な時価額算定が重要となります。

一般に、車両(を含む減価償却資産)には、新品の状態から使い始めて、どの程度の年数使用することができるか(いわゆる耐用年数)が定められており、また、新品から使い続けるにかけて、そのものの価値は少しずつ失われていくと考えられます。例えば、新車を100万円で買ったとして、使い続けるうちにボディには少ならず傷がつき、エンジンなどの機能は少しずつ衰えていきますから、ある程度の年数使用した段階で、購入価格である100万円の価値は無いと考えます。そのような、外観や機能の状態などをもとに、現実の資産価値を定めたものとして、「時価額」というものが存在します。時価額というのは、新車価格から、使用に伴う消耗分を差し引いた価格となります。

一方で、交通事故で車両が損傷した場合は、まず修理費用の算出が重要となります。これは、修理費が相当かつ可能な範疇であれば、原則として修理をしなければならない(正確には、修理費相当額までしか請求ができない)とされているからです。

そのため物損に関わる賠償額を決定する際、①修理費と②時価額+買換諸費用を比較し、

①<②の時には修理費を、①>②の時には時価額+買換諸費用を賠償額とするように取り扱われます。特に後者の場合は、「修理をするより、同等の車両を買い換えた方が安い」という考えのもと、まだ事故車両を使用することは可能だが、使えなくなった(全損)とみなすことになります。これを、物理的に車両が修理不可能であるという「物理的全損」に対して、「経済的全損」と言います。

経済的全損というのは、あくまでも交通事故の被害者と加害者の公平のために、損害額に一定の限度を設ける考え方になりますので、実際に修理するか、買い換えるかは被害者自身で判断が可能です。ただ、あくまでも補償されるのは時価額と買換諸費用の合計額までということになります。やはり問題となるのは、被害者としては修理をして使い続けたいと考えているのに、その修理費が、経済的全損の考え方によって補償されないという点です。この問題の解決及び緩和のためには、以下2点の方法及び考え方が重要です。

加害者側の車両保険に対物超過修理費用特約が無いか確認する

対物超過修理費用特約とは、時価額を超える修理費が発生した場合に、その超過分を一定の限度額まで保険によって支払うものです。

一般的には、超過分50万円までを限度とする特約が多いようですが、保険会社によっては無制限とする特約を扱っている場合もあるようです。経済的全損の場合でも、修理をして使い続けたいという場合に、加害者側の保険に対物超過修理特約がついていれば、使用を促すことがひとつの方法となります。ただし、対物超過修理費用特約は、あくまで加害者側の任意の使用であるという点には注意が必要です。稀に使用を拒む加害者がいますが、被害者側から使用を強制することはできません。もしそのような場面にあたってしまった場合には、加害者側の保険担当者に使用の交渉をしてもらうなどを試してみるとよいでしょう。

なお、差額の修理費について、自分の車両の修理費などを賄う保険がついていれば、それを利用するのもひとつの手ですが、車両保険を使用してしまうと、等級が下がり、保険料が値上がりしてしまうため、注意が必要です。

より正確な時価額算定を行う

時価額を算定する際には、様々な資料が根拠となり得ますが、算定する媒体により評価は様々ですので、きちんと自らに有利な情報を取得する必要があります。時価額算定について争いが生じやすいのは大きく分け以下の3つのパターンです。

(1)初度登録から5年程度経過した車

初度登録とは、車が運輸局(または軽自動車検査協会)に初めて登録申請し、受理された年月のことをいいます。その年月から実際に使用され続けた場合に、前述による時価額の低下が問題となります。

通常は、レッドブック(オートガイド自動車価格月報)と呼ばれる自動車の基本価格を一覧にしてまとめたものを参考にしますが、ほとんどのケースで低く金額が記載されていますので、カーセンサーなど中古車市場で走行距離・色・グレードなどを調査した上で、同じような車両の平均値をとって交渉するのが一般的です。

(2)希少車種

アンティークカーといった希少車種は、市場に出回ること自体が稀ですので、過去の取引事例を調べる必要があります。具体的には、海外の高級オークションの相場履歴を一覧にまとめたり、業界に精通した人物の意見書を取り寄せたりするなどです。

(3)工業用車両

冷凍トラックやタクシー、工事用車両などは、依頼者に応じて受注生産がなされています。そのため、中古車市場では同じようなものがない場合が非常に多いのです。また、保険会社が時価額を下げるために、減価償却を主張する場合がありますが、普通乗用車の減価償却期間が3年~5年であるのに対し、例えば工事用車両などは20万km~100万km程走行可能ですので、ごく一般的な減価償却は適用されません。通常の使用期間を聴取した上で、ケースに応じた減価償却を適用するため、細かな主張を積み上げていくことが重要です。

なお、経済的全損と判定された車両を使い続けることについては、もう1点の問題があります。それは、再度事故に遭った場合に、車両価格を無価値とされてしまう可能性があるという点です。経済的全損という判定に基づいた保険金(車両の時価額分)を支払ったのだから、その車両は価値のないものと扱われてもしょうがないだろうという考えに基づいています。この問題については非常にグレーでありますが、例えば、経済的全損の判定があった場合でも、その後に修理を行っていれば、被害車両価格が時価額程度まで回復したと考えられますので、その後に事故に遭ったとしても無価値ではないという主張ができる可能性があります。

 
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