Q②-5

交通事故の怪我の治療として、労災保険や健康保険を利用すべき場合とは、どのような場合なのでしょうか?

A:過失相殺が予定されている場合や、相手が無保険者の場合、ひき逃げなど加害者が不明であったり自賠責保険にも加入していなかったりするような場合です。

通常、加害者が任意保険会社に加入していれば、被害者の、事故による怪我の治療費は、保険会社の一括対応によって予め支払われます。この際の治療としては、自由診療が適用されますが、自由診療とは、医療保険制度を用いない治療のことであり、窓口での負担が10割となります。この点は皆さんもよくご存じなのではないかと思いますが、実は、自由診療の特徴として、診療単価の違いがあります。通常、健康保険の場合は、診療単価が1点10円、労災保険の場合は、診療単価が概ね1点12円と法律で決められていますが、自由診療の場合には、医療機関側で診療単価を自由に設定できます。1点20円とする医療機関が大多数ですが、中には1点30円とするようなところもあります。このような診療単価の違いにより、損をしたり、経済的負担を強いられたりする場合があります。

過失相殺が予定されている場合

例えば、ある交通事故(過失割合70:30)で怪我を負った被害者が治療を行ったとし、自由診療で治療費40万円、健康保険を利用した場合には治療費が20万円まで抑えられるとします。また、どちらのパターンにおいても共通で、慰謝料100万円がかかるとします。なお、どちらのパターンにおいても、加害者側に任意保険会社がついており、治療費は一括対応をしてもらえたとします。

A.自由診療で治療費が40万円かかった場合

 

 

 

計算式:

(慰謝料100万円+治療費40万円)×70%(過失相殺)-40万円(既払い金)

=58万円

B.健康保険を利用して、治療費が20万円に抑えられた場合

 

 

 

 

計算式:

(慰謝料100万円+治療費20万円)×70%(過失相殺)-20万円(既払い金)

=64万円

このように、健康保険を利用し、治療費を抑える方が、その後の損害計算時に、受け取れる金額が高くなることが一般的です。なぜかと言うと、診療単価の違いと、被害者にも過失があることが理由です。AのパターンもBのパターンも、当然慰謝料として請求できる額は70万円ですが、Aの場合はそこから12万円、Bの場合はそこから6万円が引かれていることが分かります。この引かれている金額というのが、治療費の自己負担分です。被害者側にも過失がある場合、治療費の一部も当然自己負担となってしまいます。治療費が高くなればなるほど、この自己負担分も増えていくことになり、結果として受取額が減少することになります。他方で、明らかに被害者が無過失である場合には、自由診療でも問題はないと言えるでしょう。

相手が無保険者(ひき逃げなど加害者が不明、自賠責保険未加入などのケース)の場合

ひき逃げなど加害者が不明である場合や、任意保険未加入、ひいては自賠責保険料未納等を理由とした自賠責保険未加入である場合、一括対応の主体が居ないのはもちろんのこと、最悪のケースとして泣き寝入りという可能性も無い訳ではありません。また、加害者が判明している場合でも、任意保険に未加入の場合は、加害者が無資力である可能性も否定できません。さらに、自賠責保険の補償上限額は120万円までとなっています。このような場合は、治療費をなるべく抑えるためにも当然使用した方がよいでしょう。

なお、②のようなケースの被害者の救済を図る事業として、国が管轄の「政府保障事業」というものがあります。健康保険や労災保険及びその他の社会給付や、損害賠償責任者の支払いを以てしてもなお被害者に損害が残る場合に、その損害額を補填する事業になります。こちらを利用するのもひとつの手ですが、被害者が社会保険を利用していることが前提となりますので、ご注意ください。

なお、労災保険が利用できるのは、業務中に交通事故に遭った場合(業務災害)と、通勤中に交通事故に遭った場合(通勤災害)に限られます。特に、通勤災害は、就業に関する移動として、労災保険法第7条第2項及び第3項に掲げる項目に該当するかが重要となります。

 
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