Q①-8:”損益相殺”と”過失相殺”の違い

「損益相殺」と「過失相殺」の違いは何ですか?

A:どちらも、公平の見地から行われる減額調整ですが、損益相殺が「被害者が不法行為によって損害を被った一方で、何かしらの利益を得た場合に、その利益を損害から控除する」という調整であるのに対し、過失相殺は、「不法行為の被害者にも一定の落ち度があるという場合に、双方の過失を割合的に把握し、損害賠償額を減額する」という調整であるという違いがあります。

過失相殺とは、損害の公平な分担という趣旨から、被害者に過失(落ち度)がある場合にそれを考慮して損害賠償額を減額することをいいます(民法722条2項)。

実務上は、典型的な事故については過失相殺率がある程度パターン化されており(東京地裁民事交通訴訟研究会編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(別冊判例タイムズ38号)』)、裁判のみならず事前の交渉段階でも広く活用されています。

損益相殺と過失相殺とは、制度趣旨は同じくするものの、あくまで別の制度です。そのため、1つの交通事故事件において、損益相殺・過失相殺いずれもが適用されるケースがあります。この場合、損益相殺と過失相殺のどちらを優先的に算定すべきかが問題となります。この点について、判例及び裁判例によると、厚生年金保険法、国民年金保険法、健康保険法に基づく給付金については、損益相殺の後に過失相殺をすることとしています。もっとも、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく給付金については、 判断が分かれているところです。

ただし、実務上、任意保険会社との示談交渉では、被害者に有利になるように過失相殺前に損益相殺をするケースが多数といえます。

 
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