Q①-11:”過失割合”と”過失相殺率”は違う?

自分が歩行者で事故に遭いました。信号のある交差点を相手が赤信号時に進入してきたのですが、自分も信号が黄色の時に渡ってしまったため、自分の怪我などに関わる損害額から10%の過失相殺がされると言われました。相手の車両は、自分を轢いた後に電柱に衝突してしまい、車も損傷しているのですが、この場合、相手車両の修理費の10%を負担しないといけないのでしょうか。

A:ご自分の損害額になされた過失相殺率が、必ずしも物損に対して適用される訳ではありません。「歩行者」である貴方に課される責任と、「車両の運転者」である相手に課される責任の本質が異なりますので、物損については、事案ごとに過失相殺率とは別に様々な判断がなされることが多いでしょう。

交通事故が起こった際の双方の責任割合を示すものとして、「過失割合」というものが存在します。例えば、過失割合が30:70であった場合、「基本的に加害者が悪いが、被害者にも3割の過失があった」ということを示しています。この過失割合は、「判例タイムズ社」というところが発行する「別冊判例タイムズ 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という冊子にて、過去の判例に基づき、事故態様別に類型化されおり、生じた交通事故を当該冊子にて類型化されたものに当てはめることで、過失割合の検討がなされます。一方、同じような言葉で「過失相殺率」というものが存在します。簡単に説明すると、「被害者の落ち度を考慮した上で減額すべき損害賠償額のパーセンテージ」です。「過失割合と何がちがうのか?」と思う方も多いのではないかと思いますが、本質的に意味が違います。

「過失割合」というのは、例えば「30:70」、「50:50」というように、前述の通り当事者双方の責任割合を指しますが、これは、基本的に自動車対自動車、自動車対単車(自動二輪)、単車対単車というように、立場的にある程度対等な当事者同士の場合に用いられます。過失割合が決定すると、それに応じ、損害額から過失分の金額が減額される訳ですが、その減額されるパーセンテージが「過失相殺率」となります。例えば、「30:70」という「過失割合」の場合、被害者の損害額の「過失相殺率」は30%ということになります。

しかし、例えば歩行者対自動車というような、一方が俗に言う交通弱者である場合、道路通行時にそれぞれに課される責任の質は全く異なります。そうなると、質の異なる責任を対比して過失割合を導くという考え方は馴染まないのです。

その場合には、被害者(歩行者)の過失(落ち度)を考え、それをパーセンテージ(過失相殺率)として表すことで、損害額から減額をするという方法を取ります。Qのような例では、「被害者が黄色信号の交差点を通行した」という被害者自身の落ち度を考慮することで、損害額から10%の減額がなされるべきと考えたということになりますが、この10%は、あくまで「被害者自身の落ち度をもとにすると、損害額の10%は自己負担が望ましい」と考えのもとに生まれたのであり、相手方の物損についてまで、10%の責任を負うべきということを示した訳ではないのです。繰り返しになりますが、歩行者の落ち度と、自動車を運転する者の落ち度の質は全く異なるため、同列に比べるべきではないということです。先ほど、自動車対単車の場合にも過失割合が用いられると述べましたが、自動車と単車を比べても、責任の質が異なると言えるため、同じような事故態様でも自動車対自動車と、自動車対単車の場合では、過失割合が異なります。結論から言うと、単車側の過失相殺率が低くなるような取扱いが多いのですが、これは、単車の方がその特性上怪我をしやすいという点の配慮がなされています。

上記を踏まえた上で、この過失割合や過失相殺率(主には過失相殺率)を決定する際の政策的配慮については、以下のような原則があります。

①被害者保護の原則…弱者保護の観点から被害者の利益を保護し、被害者に重大な過失がある場合のみ、損害賠償額が減額される。

②危険責任の原則…危険な状況を作り出した者が損害賠償責任を負わなければならない。

③優者危険負担の原則…弱者保護の観点から、一般に優位にある者がより大きく責任を負担すべきである。(人→自転車→単車→四輪車の順に注意義務が大きくなる)

これらの原則が最も大きく関わるのは、当事者の身体的損害です。例えば、信号がある交差点で、直進車(四輪)と、対向車線の右折車(四輪)の衝突事故が起こったとします。基本の過失割合については、「別冊判例タイムズ38」のうち、事案107に基づき、直進vs右折=20:80と決められています。しかし、同じ事故態様であったとしても、直進車(単車)vs右折車(四輪)であった場合、事案175に基づき過失割合は15:85と定められています。また、直進車(四輪)vs右折車(単車)であった場合も、事案176に基づき、過失割合は30:70となります。これは、当事者の一方が単車の場合に、単車の運転者が被るであろう人的損害への配慮がなされているのです。そのため、同じ事故態様であったとしても、怪我の有無及び程度により、過失割合が変化する可能性があるという点に注意が必要です。

 
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