Q②-9:「その程度の事故なら怪我しない」?

車を運転していて信号待ちをしている最中に、突然前方の車がバックして追突してきました。むち打ちで通院したいのですが、相手の保険会社から「低速度での追突だから、怪我をするのは有り得ない。治療費は支払えない。」と言われてしまいました。このような場合、どうすればよいでしょうか。

A:受傷の妥当性を後に争うこととなります。裁判はほぼ必至となりますが、解決するまでは自己負担は免れないので、健康保険(場合によっては労災保険)等を利用し、自己負担額を抑えるようにしましょう。

このようなケースは、通称「受傷疑義案件」と呼ばれ、簡単に言えば加害者側から「この程度の事故で本当に怪我をしたのか」と疑われるケースです。事前認定や、被害者請求で因果関係が否定された場合にも受傷疑義が生じることはありますが、加害者が主張するケースが多いです。

受傷疑義が争われる事故態様としては、

①逆追突
②低速での追突事故
③ミラー同士の接触
④ドアパンチ

などがあります。いずれも、軽度の衝撃と捉えられることから受傷の有無が争われやすいのです。

裁判で争われる場合には、カルテ・双方の速度が記された実況見分調書・物損に関わる資料などが判断材料となります。また、双方から工学的な鑑定書(事故車両の損傷状況や、事故現場に残る痕跡、受傷状況など、様々な要素を工学的に分析・検証し、当時の事故状況を部分解明するもの)が提出されることもあり、それらの証拠に対する反論主張が重ねられます。工学的な鑑定書については、単に一般論を述べるだけでは足らず、具体的事案についての言及がなされているかが重要です。

なお、裁判の多くは和解で終了しますが、判決までいく場合もあり、結果としては受傷を否定した判決も一定程度存在するという状況です。

(1)受傷を肯定する意見

・頸椎の過伸展(衝撃によって身体が鞭のようにしなること)を抑制するために開発されたヘッドレストが義務化されていても、依然として頚部受傷者が増加していることは知られており、むち打ち損傷のメカニズムが医学的には解明されていない。

・頸椎捻挫は画像所見がないことがほとんどであり、被害者の自己申告にならざるを得ない。低速の追突事故でも頸椎捻挫は珍しくないし、医学的に否定することも難しい。

(2)受傷を否定する意見

・頸椎捻挫の発生機序は頚椎の過屈曲と過伸展であり、鞭のようにしなることで生じるものだが、低速事故ではこれが生じない。

・捻挫は画像所見が無く、あくまで自覚症状(愁訴)のみに基づいている。したがって、愁訴の信用性の問題となる。

裁判例の中には、整骨院治療の一括対応の妥当性から、受傷疑義に波及したようなものも多いため、もし痛みが本当にあり、治療の必要性を感じるのであれば、整形外科治療をきちんと定期的に行うようにしましょう。また、受傷が認められた場合でも、治療期間が制限される可能性がありますので、注意が必要です。

 
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