Q②-19

後遺障害の等級がついても、減収が無いことにより労働能力の喪失が認定されず、逸失利益の請求が拒否されるというケースはあるのでしょうか?

A:原則は、現実に減収が発生していなければ、労働能力の喪失を理由とする財産の損害は請求できないとされていますが、収入の減少がなくとも、将来の昇給・昇進・昇格に影響があったり、収入の減少を防ぐ努力等を本人がしていると認められる場合は、逸失利益が認定される傾向にあります。

そもそも、「逸失利益」とは、本来得られるべきであったにも関わらず、債務不履行や不法行為が原因となり、将来にわたって得られなくなってしまった利益のことを指します。例えば、交通事故に遭い片足を失ってしまった被害者が、もともと就いていた仕事を続けることができずに退職し、低賃金の仕事に転職したという場合に、もし片足を失っていなければ、そのまま仕事を続けて収入を得続けられたはずであり、収入が将来にわたり減少してしまうことになるため、その差額を逸失利益とし、損害として請求ができるようになります。

交通事故で怪我を負った場合、一般的には、完治しなければ、被害者請求(後遺障害等級認定請求)を行い、後遺障害等級が付いた場合には、等級ごとに定められた労働能力喪失率をもとに逸失利益を計算します。つまり、後遺症を負ったことにより、仕事の能率がいくらか失われているはずであり、その低下度合いを「労働能力喪失率」として客観的に統一しているのです。ここで重要なのは、「労働能力が喪失することにより、将来の収入の減少が予想されることから、失われる予定の利益を補償する」のが逸失利益の考え方であるという点です。したがって、後遺障害等級は付いたものの、現実に収入の減少が予想されない場合には、逸失利益も発生しないと考えることができます。

この点につき判例は、「厳格な差額説」から「緩やかな差額説」へと考えを変えています。

かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても,その後遺症の程度が比較的軽微であって、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては,特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないというべきである。

『最高裁判所昭和56年12月22日第三小法廷判決より』

基本は、「現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては」逸失利益を認めないという立場を取りつつも、「特段の事情のない限り」と例外を設けています。例えば、

①減収が無くとも、減収を無くすために本人において特別の努力をしている

②現在の収入の減少はなくとも、昇給・昇任・転職等の生涯賃金形成の可能性を低める場合がある

③「本人において」でなくとも、雇用主側が収入の減少を無くすための特別な配慮をしている

などの事情がある場合には、現実の減収がなくとも逸失利益が認められる傾向にあります。もちろん、減収が無い場合に、逸失利益を否定した裁判例も存在しますが、少数派です。むしろ、肯定した裁判例では、ケースごとに詳細な検討がなされており、特に①の「特別な努力」を多方面から認めている傾向にあります。そのような傾向から、実務上は、後遺障害等級が付いた場合には、保険会社はそれに対応する労働能力喪失率に基づく逸失利益を認めるという方向に動いています。

 なお、逸失利益の存在は認められやすいとして、等級通りの労働能力喪失率が認定されるか、それより低い率を認定するかは、判例上は同数程度です。それこそケースバイケースと言わざるを得ません。

 
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