「交通事故」はどのように解決されるか

交通事故に遭われてから事件が解決するまでの間、実に多様な手順を踏んでいくこととなります。ほとんどの交通事故の被害者様にとって交通事故は初めての経験であり、戸惑ったり、不安に思ったりすることは当然のことと思います。

少しでも流れを把握しておくことで、次に何をしなくてはいけなくて、どのようなことを考えなくてはいけないかが分かり、不安の軽減にもつながるのではないかと考えます。

なお、ここでは、あくまで大まかで一般的な流れを説明するのみとなりますので、それぞれの項目についての細かな説明などは、実際に弁護士にご相談いただく際に、弁護士からさせていただくこととなります。

図で見る交通事故事件の解決フロー

目次

1:交通事故の発生~治療の終了まで
 ①事故状況の記録(実況見分)
 ②保険会社に事故の発生を報告
 ③治療の開始
 ④治療期間中の対応
 ⑤仕事を休んだ時の補償(休業補償)
 ⑥物的損害額の調査
 ⑦事故状況や過失割合の調査
2:症状固定~後遺障害の認定手続まで
 ①治療終了(一括対応終了)間近の対応
 ②医師による症状固定の判断と後遺障害診断書の作成
 ③加害者側の自賠責保険会社に申請
 ④異議申立
 ⑤異議申立でも駄目なら
3:損害額の確定~示談交渉まで
 ①人身損害の算定基準について
 ②示談交渉について
4:示談交渉不成立後に利用できる手続き
 ①ADR
 ②訴訟
 ③示談か、ADRか、訴訟か…
5:弁護士に依頼する場合は…
 ①弁護士費用特約への加入でさらに安心!
 ②弁護士介入のタイミングで費用が変わることは原則として無い!
 ③弁護士費用特約を使用する場合でも、弁護士は自由に選べる!
6:まとめ
7:リンク集

1:交通事故の発生~治療の終了まで

①事故状況の記録(実況見分)

交通事故に遭ったら、まずは警察に通報しましょう。小さな事故や怪我がないようないわゆる物損事故でも同じです。また、駐車場内の事故などでも、警察に来てもらうことは可能です。

通報を受けた警察が現場に到着すると、事故の状況を記録してくれます(実況見分)。当事者情報・事故の概況などが記録されることで、対外的に事故の内容を証明するものになり交通事故証明書という書類で発行が可能となります
警察に通報しない限り、交通事故証明書は発行されません。交通事故証明書は、後に加害者側の任意保険会社や自賠責保険会社に保険金や賠償金を請求する際絶対に必要となるもので、それがないと保険金や賠償金が支払われない可能性もあります
被害者としての権利や利益を守るため、どんなに小さい事故であっても警察への通報は怠らないようにしてください。

実況見分では、警察官が被害者と加害者双方の言い分を聞き取り、事故状況について実況見分調書に記載されます。実況見分調書は、後の示談交渉や裁判手続等において、とても重要な証拠として取り扱われますので、実況見分には必ず立ち会い、被害者として見たままの状況をきちんと警察官に伝えるようにしてください。なお、被害者が怪我を負って救急搬送された場合など、直後の実況見分の実施が難しい場合には、後日に行われる場合もあります。「救急搬送されて現場から去ってしまうから立ち会えないということはありませんので、ご安心ください。

  • 人身事故として処理してもらうようにしましょう! 

交通事故で怪我を負った場合には、人身事故として処理してもらうことが大切です。
交通事故というのは、一般に「人身事故」と「物損事故」に分けられ、これらは警察によって処理されます。

  • 人身事故…交通事故によって人の生命や身体に損害を発生させたもの
  • 物損事故…生命や身体への被害はなく、自動車や標識など物にのみ損害を発生させたもの

つまりは、事故の当事者の生命や身体に損害(怪我など)が発生しているか否かで分かれることになります。被害者が怪我を負っているにも関わらず、物損事故として処理されたままになることは被害者にとって一定のリスクを伴います。

その1:受傷を疑われかねない 
事故直後は身体への異変をほとんど感じないために物損事故として処理したものの、後に身体に具体的な症状が現れ、怪我を負っていることが分かったというケースがよくあります。その場合、警察において物損事故として処理されたままになってしまうと、対外的には「怪我は無い」もしくはあったとしても「大したことない」と捉えられかねません。

その2:警察の実況見分調書が作成されない 
先に説明している通り、警察の実況見分調書は事故の発生状況や内容を表す非常に重要な証拠となりますが、物損事故の場合にはこの実況見分調書が作成されません
もし、事故の過失割合が争点となったり、受傷が疑われたりした場合に、実況見分調書が作成されていないと、事故の詳細が客観的には分からず、適切な交渉を行うことが難しくなってしまいます。

ですから、可能な限り人身事故としての届出、もしくは物損事故から人身事故への切り替えを行いましょう。
方法は、

  • 病院で診察を受け、診断書を発行してもらう
  • 所轄の警察署に人身事故へ切り替えたい旨連絡し、手続きした上で診断書を提出する

のみです。切り替えに明確な期限はありませんが、事故発生から期間が空けば空くほど、警察側が切り替えを拒否する可能性が高くなってしまうので、早めに行いましょう。
なお、保険会社によっては、物損事故のままでも人身事故と同様の補償を約束してくれる場合もあるかもしれませんので、保険会社に相談してみるのもひとつです。

②保険会社に事故の発生を報告

自分の任意保険会社に事故の発生を報告しましょう。その際、加害者側の情報を求められることになりますので、加害者側の情報をある程度記録しておくことが望ましいでしょう。

加害者の情報として記録すべき事項は、

  • 氏名
  • 住所
  • 連絡先(電話番号)
  • 車のナンバー、車種、車体の色や特徴
  • 加入している自賠責保険、任意保険会社

などです。
交通事故発生時には、被害者と加害者それぞれが、自分の任意保険会社に連絡するのが通常です。そのため、被害者加害者問わず、自分が交通事故の当事者となってしまった時の為に、自分の任意保険のサポートセンターの番号などを控えておくとよいでしょう。

③治療の開始

事故によって怪我を負った場合には、早めに病院に通うことが大切です。特に、交通事故の受傷で大きな割合を占めるむち打ち症状は、事故直後にはあまり痛みを感じないものの、時間が経ってから症状が強く現れるというケースがよくあります。違和感を少しでも感じるような場合には、ためらわず通院しましょう。事故発生から期間が空いて通院を開始したようなケースでは、加害者側が交通事故と怪我の因果関係を否定してくる可能性もあります。被害者自身が適正な補償を受けるために、すぐに病院に行くことはとても重要なことです。

  • 診察時には自分が感じている症状を具体的に伝えること 

病院で診察を受けたり、治療を受けたりした場合、その内容は必ず病院のカルテ・診療録・保険会社に提出される診断書等に記載されます。特に、病院のカルテや診療録は、診断書に比べて患者である被害者の訴える症状などが詳細に記録される傾向にあります
カルテや診療録の記録によって、

  • 被害者が受傷初期にどのような症状を訴えていたか
  • 治療によってどのような効果があるか
  • 痛みなどを一貫して訴えているか

などを読み取ることができ、そういった情報は、被害者にとって有利になる場合が多いです。特に、整形外科的な症状は、受傷直後が最も酷く、その後の時の経過や治療によって少しずつ回復していくという傾向にあります。なので、初診時には、自分が感じている症状や違和感は漏れなく伝えるようにしましょう。「初診時には訴えていない症状が後から発現した」と読み取れる場合、事故との因果関係を否定されてしまう可能性があります。

  • 加害者側の保険会社に通院する病院を伝えること 

加害者側に任意保険がついていれば、治療費は基本的に加害者側の保険会社が支払ってくれます。保険会社から病院へのスムーズな支払いがなされるためにも、どこの病院に通うのかを予め伝えておきましょう

併せてご覧いただきたい!
Q:相手が受傷を否定する場合は?
Q:相手が任意保険に加入していない場合は?
Q:整骨院等への通院を併用する場合の注意点は?

④治療期間中の対応

治療期間中は、相手の保険会社から定期的に怪我の程度や治療の状況などを確認する電話がきます。例えば、「痛みの具合はどうですか?」「1番症状が重いと感じた時に比べてどうですか?」「週何回通院していますか?」「どんな治療を受けていますか?」などです。これらの質問は、保険会社側で被害者の治療の適切な終了時期を見極めるために行われています。
被害者の立場からすれば、自分が希望する時期まで治療できる方が嬉しい訳ですが、残念ながらどんな場合でも希望する限り無制限に…とはいきません。治療費は相手側の保険会社が負担するため、当然保険会社としてはなるべく治療費の負担は少ない方がいいと考えます。時には、事故の衝撃が小さかったり治療費が必要以上に長引いたりした場合に、保険会社が治療費の支払いを拒んだり途中で打ち切りを宣言したりすることがあります
この時、被害者側は、

  • 打ち切りを撤回してもらえるよう交渉する(対応期間を延ばす)
  • 自費負担で通院を継続し、後に保険会社に請求する
  • 打ち切りを受け入れ、治療を終了する

のいずれかの選択を迫られることとなります。

⑤仕事を休んだ時の補償(休業補償)

交通事故に遭った場合、仕事を休まざるを得ない状況となるかもしれません。入院の場合はもちろんですが、怪我のために仕事ができなかったり、通院のために仕事を休まなければいけなかったりする可能性もあります。交通事故に遭わなければ、いつも通り元気に仕事をすることができた筈ですから、仕事を休まなければならなくなったことへの損害は、立派な賠償項目となります。この項目を通常「休業損害(略して休損)」、「休業補償」といいます。

  • 会社員等の休業損害 

治療の一環で仕事を休んだ場合、保険会社から「休業損害証明書」という書類をもらい、会社に作成をお願いする必要があります。作成された休業損害証明書を保険会社に送れば、保険会社の基準で計算し、休業損害を支払ってもらえます。
また、有給休暇を使用して仕事を休んだ場合でも、補償の対象となります。なぜなら、有給休暇は本来使途の制限なく自由に取得できる休暇であり、それを不本意な形で消費させられたこと自体が損害に当たると考えられるからです

  • 自営業の方の休業損害 

会社員の方の休業損害は、概ねその損害額がはっきりと分かります。しかし、自営業者の方の収入は、様々な要因から増減するため、

  • そもそも減収があったのか
  • あったとして、どの部分が交通事故被害が原因となる減収なのか

がはっきりとしない場合が多いと言えます。結局休業損害証明書も作成できないため、保険会社が休業損害の支払いを拒否するか自賠責の最低基準でしか支払おうとしないことが多いのです。

併せてご覧いただきたい!
Q:事業所得者の休業損害の計算方法は?

  • 主婦(夫)の方の休業損害 

世の中には、仕事と主婦(夫)業を兼任している方、はたまた主婦(夫)業を専門としている方も多くいらっしゃるかと思います。仮に仕事への影響がそこまで無かったとしても、自宅での家事が思う様にいかず、余計な出費が出たり、家族に手伝ってもらったりすることがあるはずです。そのような、家事労働への影響による損害を「主婦(夫)休損」といいます。会社員の休業損害は、実際に怪我や治療の影響で会社を休んだ(あるいは遅刻・早退した)かどうかで損害が測られるため、会社を休んでいなければ休業損害の請求は難しいのですが、たとえば会社は休まなかったとしても、炊事・洗濯・掃除など、主婦(夫)業としての家事に支障があったという事実があれば、その点を主張して主婦(夫)業としての休業損害を請求できる余地があります

併せてご覧いただきたい!
Q:家事従事者の休業損害の計算方法は?

⑥物的損害額の調査

ここまでは、主に身体への損害(人身損害、人身)について説明しましたが、事故に遭った際に車や自転車に乗っていれば、それらに損害が生じているはずです。また、自転車乗車中や歩行中に事故に遭った場合、身に着けているもの(衣服や鞄・靴などの「携行品」)にも損害が生じているはずです。これらの損害をまとめて物的損害(略して「物損」)といいます。

これらの損害額の調査も、一筋縄ではいきません。通常、物というのは、新品で購入した状態から使用に伴い、その価値は減少していきます(減価償却)ので、単純に「新品価格を弁償しろ」と要求することは非常に困難です。
ですから、物損額を確定させるには、

  1. 新品価格はいくらだったか
  2. 事故による損害箇所はどこか
  3. 修理価格はいくらか
  4. 事故に遭った時の価値(時価額)はいくらぐらいになるのか
  5. 付加価値はあるか(改造を施したなど)

などを調査し、具体的な損害額を算出しなければなりません。
この点において重要なことは、「損害品をきちんと保管しておく」ことです。こちらが主張したい物損を相手方が素直に認めるとは限りません。その場合においては、損害品の現物を見せ、損傷個所などをきちんと示すことで、相手方に損害を認定してもらわなければなりません。損害品を捨ててしまうと、現物による主張が一切できず、物損の請求自体が困難となってしまう場合がありますので注意が必要です。

なお、人身の損害額は、治療の終了が前提となりますので、計算ができるようになるまでには時間がかかります。ですから、物損及びこの後説明する過失割合の交渉は、人身に先立って行われることが一般的です。

⑦事故状況や過失割合の調査

怪我の治療や物損の調査とともに行うべきこととして、「事故状況や過失割合の調査」があります。

まず、過失割合とは、起こった交通事故の責任の所在を加害者側と被害者側でそれぞれ数値化したもので、通常「100対0」・「80対20」など、比によって表されます。
過失割合の決定は、大まかに分けると、

  • 事故状況を正確に把握
  • 過去の判例等を参照し、基本の過失割合を当てはめ
  • 過失割合の修正要素について確認

という手順で行います。特に、基本の過失割合は、過去の判例や解決事例などからある程度類型化されており、それらは『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称『赤い本』)や『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準別冊判例タイムズ)』といった冊子にまとめられているので、同様あるいは類似した事故類型を見つけ出し、そこに定められている過失割合を当てはめることとなります。
しかし、全く同じ事故というのはこの世に2つと存在しません。ですから、交通事故に遭われた状況によっては、過失割合が被害者にも加害者にも有利に修正される場合があります。どのような場合にどの程度過失割合が修正され得るかは、先ほど紹介した冊子に事故類型毎に記載されています。

ただし、被害に遭った交通事故における特別な状況を一生懸命口で主張しても、相手にとって不利な事情であれば、相手方はそう簡単に納得しないでしょう。例えば、「交差点進入時に相手はスマートフォンを見ていた」と主張しても、客観的な証拠が無ければ認められる可能性はほとんどありませんし、「法定速度を明らかに上回る速度で走行していた」と主張しても、もしドライブレコーダーの映像が無ければ、立証はかなり難しくなってしまいます。そのため、当時の事故状況の調査が必要になる場合もあります。
調査の内容としては、例えば、

  • ドライブレコーダー映像の解析調査
  • 独自の現場検証による測量等調査
  • 事故車両の衝突痕をもとにした工学鑑定

といったものがあります。事故状況の調査や映像解析・工学鑑定を専門に行う法人などがいるので、そこに調査を依頼することとなるでしょう。

なお、前提として、警察による実況見分においては、自分の言い分を必ず警察官に伝えましょう。実況見分調書は、その事故において第三者が作成する最初の事故状況記録なので、事故状況を証するものとしての重みが違います。

2:症状固定(あるいは治癒)~後遺障害の認定手続まで

①治療終了(一括対応終了)間近の対応

ある程度の期間治療を継続してきた場合、治療の終了時期を判断する必要が出てきます。

  • もう通院・治療の必要がないと判断する場合 

治療の成果として痛みなどが取れ、「もう病院に通わなくてもよい」となれば、「治癒」となり治療は終了します。治療にかかった費用などが確定すれば、人身損害の計算が行えるようになります。

  • 一括対応が打ち切られそうだが治療を継続したい場合 

被害者自身としては治療を継続したいものの、保険会社が治療継続を認めないという場合、自費での通院を継続するという選択肢があり得ます。自分の意思で通院を継続することは可能ですが、一括対応終了後は自己負担となる点に注意が必要です。
後に自己負担分の治療費を保険会社に請求することは可能ですが、その際、適正な治療期間について争われることになります

なお、被害者の治療費について加害者側の保険会社が支払う場合、診療報酬は自由診療が一般的です。途中から自己負担で通院を継続する場合は、被害者自身の健康保険等の利用に切り替えることが可能です。後に保険会社に請求するにしても、一旦立て替える必要が出てきますし、必ずしも請求が通る訳ではありませんので、負担を抑えるためにも切り替えを行うことをお勧めします。

  • 「これ以上治療しても改善の見込みがない」と判断される場合 

一般に整形外科的な身体症状は、受傷直後が最も酷く、その後時の経過や治療によって少しずつ回復していきますが、治療を継続したとしても完治せず、治療の効果があまり実感できなかったり改善効果が見込めなかったりという状態が訪れます。

このような状態を症状固定といいます。
傷や怪我が治り身体が前の状態に戻ることが1番ですが、交通事故の怪我はある程度大きいものもあるので、実際「これ以上は治療を続けても良くならない」というケースは多くあります。
症状固定となる場合、原則として治療は終了となります。厳密には、自分の意思で通院を続けることは可能ですが、保険会社側の一括対応など、治療に対する支払い義務の区切りが一旦付くことになります。しかし、身体の痛みがまだ残っていたり手足の可動域制限があったりと、完治には程遠い状態である場合もあります。そのような場合は、後遺障害の認定申請を行い、特定の障害が残っていることを認定してもらう必要があります。もし後遺障害が認定されれば、通常の賠償項目に加え、後遺障害が残存していることに対する新たな賠償を請求することが可能になります

後遺障害の申請については、基本的に以下の流れで進んでいきます。

②医師による症状固定の判断と後遺障害診断書の作成

症状固定時期の判断については、主治医の医師の判断が尊重されます。なぜなら、治療の効果があるのかないのかを医学的に判断できるのは、医学の専門家である医師だけだからです。ただし、自覚症状としてどうなのかというところや、治療の効果を実際に実感できているかどうかについては被害者自身にしか分かりません。
ですから、症状固定の時期については、医師とよく相談しながら決めるようにしてください

実際に症状固定となり、後遺障害の申請を行うことになった場合は、医師に後遺障害診断書の作成を依頼することになります。これは、医師の診察によって、患者である被害者にどのような後遺障害が残存しているのかについて診断した内容を記したもので、後遺障害申請における最も基本的なアイテムとなっています。
後遺障害の診断にあたっては、

  • 被害者の生活においてどのような支障があるかどうかの問診
  • 後遺障害に関する種々の検査

等が行われます。

③加害者側の自賠責保険会社に申請

後遺障害診断書を受け取ったら、その他必要書類を揃え、実際に申請することになります。申請先は、加害者が加入する自賠責保険会社になります
ここで、後遺障害の申請については、2通りの方法があります。

一見、手続きを全て任せられる事前認定の方が便利のように思えるかもしれませんが、申請に関わる資料などを保険会社に一任されるので、どのような書類を提出したかということを確認することはできず、また、等級認定に有利な資料を積極的に提出しようとはしませんので、審査結果について信憑性に欠ける可能性がある点がデメリットです
一方、被害者請求は、手続きに必要な書類や資料の収集を被害者自らが行わなければいけないため、大きな負担となってしまいますが、最低限必要な書類に加え、医師の意見書や被害者本人の陳述書などで後遺障害の内容をより正確に伝えることが可能なので、より事実に即した調査が行われることが期待できます

後遺障害の認定可能性を考えると、できるだけ被害者請求を利用し後遺障害申請を行いたいところです

なお、申請から審査終了までには、最低でも1ヶ月、障害の程度によっては半年から1年の期間がかかる場合もあります。

④異議申立て

審査の結果が出たとして、「後遺障害にはあたらない(非該当)」となってしまったり、現に感じている症状に見合った後遺障害が認定されないケースが多々あります。
その場合、審査結果を不服として異議申立てを行うことを検討します。
異議申立ての手続きを行うためには、

  • 認定結果(もしくは非該当結果)の原因を探る
  • 再度病院に行ってMRI検査など新たな検査をしてもらう
  • 主治医の医師と面談し後遺障害の原因について議論などを行う

などといった準備を行い、認定に向けた戦略を練る必要があります。

⑤異議申立てでも駄目なら…

賢明な主張にも関わらず、希望の認定結果が得られない場合も多くあります。この場合は、以下の選択肢を考えていくこととなります。

  1. 結果を受け入れる
    ⇒非該当・あるいは現在の等級を受け入れ、損害計算へと進むことになります。
  2. 再度の異議申立て
    ⇒異議申立ては1回までと決められている訳ではないので、結果を改めて分析し、再度の異議申立てに挑むケースもあります。
  3. 自賠責保険・共済紛争処理機構へ申し立てる
    ⇒賠責保険・共済の保険金や共済金の支払いに関し生じた紛争を解決するための「調停(紛争処理)事業」というものがあります。後遺障害の認定に関する事案についても、公正中立で、専門的な知識をもっている弁護士・医師・学識経験者等からなる紛争処理委員が審査し判断を下します。
  4. 訴訟提起する
    ⇒後遺障害の存在や等級については、訴訟提起を通じて認定される場合もあります。

3.損害の確定~示談交渉まで

治癒として治療終了、または後遺障害の申請が一段落ついたら、人身損害による賠償金の支払いに向けて保険会社と交渉することになります。
被害者自らが交渉する場合には、まずは保険会社側から賠償金額の提示がある場合が多いと思いますので、提示内容が適正かどうかを判断することになります。

①人身損害の算定基準について

交通事故における人身損害の賠償額を算定する基準には、
自賠責保険基準任意保険基準裁判基準(弁護士基準の3つがあります。

  • 自賠責保険基準
    ⇒強制加入保険である自賠責保険における賠償基準。3つの基準の中では最も低額になる傾向にある。
  • 任意保険基準
    ⇒任意加入である自動車保険(任意保険)で用いられる基準。算定基準は保険会社毎に様々なため、多少の金額の差が生まれる。
  • 裁判基準(弁護士基準
    ⇒交通事故の損害額を裁判で争う際に用いられる基準。賠償額が最も高額になる弁護士介入時にも用いられる

人身損害の賠償項目の内、治療費通院費(ガソリン代・タクシー代・バス代など)・装具代(カラー、サポーター、松葉杖など)などは、受傷そのものや通院期間の争いが無い限り、実額が払われる見込みが高いかと思いますが、傷害慰謝料休業損害後遺障害に関わる損害(後遺障害慰謝料・逸失利益)などは、それぞれの算定基準に基づいて計算されるため、同じ事故であっても金額が異なります。
多くのケースでは、相手側の保険会社が賠償額を示すことになると思いますが、それぞれの保険会社独自の基準に基づいて計算されており、裁判基準による金額と比較すると遥かに少額である場合がほとんどです

  • 保険会社の提示を鵜呑みにしない! 

提示された賠償額と、裁判基準による金額とを比較検討し、納得できない場合には増額交渉が必要となります。決して保険会社の提示を鵜呑みにせず、不当な金額で示談することがないようにご注意ください!

②示談交渉について

保険会社と行う示談交渉は、言ってしまえば話し合い協議です。なので、お互いの意見を主張し合いながらも、最終的にはお互いが納得できる結果へと歩み寄ることになります。双方の合意が無くては示談はまとまりません

4.示談交渉不成立後に利用できる手続き

被害者自身の金額面での”最良”を考えた場合、裁判基準で示談ができるに越したことはありません。しかし、示談の段階では、加害者側の同意が得られなければ解決とはなりません。示談がまとまらない、保険会社の提案に納得できないという場合には、第三者機関の介入を検討する必要があります
なお、人身損害に限らず、先に述べた物損額過失割合についても当事者間の見解の隔絶がある場合には、第三者機関の介入による解決を図るべきでしょう。
では、解決手段としてどのような方法や機関があるのか見ていきましょう。

①ADR

ADR」とは、「Alternative(代替的)」「Dispute(紛争)」「Resolution(解決)」の頭文字をとった略称です。日本語では、裁判外紛争解決手続と訳され、裁判によらず、できるだけ当事者同士の交渉による解決を実現するための手続きとなります。
ADRは、さらに「あっせん」と「調停」に分かれます。

  • あっせん 

あっせんとは、当事者同士の交渉で解決を図る際、あっせん人が間に入って当事者同士の話し合いを調整しつつ、交渉を進め、解決を図るものです。交通事故紛争のあっせん機関としては、

  • 日弁連交通事故相談センター
  • 交通事故紛争処理センター
  • 各弁護士会の民事紛争解決センター

などがあります。
あっせん人は、弁護士が務めることがほとんどです。双方の主張や提出された資料を確認の上、問題点を整理したり、助言が行われたのち、あっせん人よりあっせん案が示され、あっせん案に当事者が同意すれば、和解が成立することになります。
ただし、あっせんについても、言ってしまえば示談の延長ですので、当事者双方の合意が得られない限りは和解は成立しません
あっせんが不成立となった場合、それぞれの機関毎に多少の条件の違いはありますが、審査手続きや仲裁手続きに移行することが可能です。審査や仲裁に移行すると、あっせん機関が事情を勘案しながら、裁定や仲裁判断を下します。

  • 調停 

調停とは、あっせんとほぼ同じく、紛争当事者の間に第三者が介入して紛争の解決を図る手続きです。あっせんとの違いは、制度や手続き方法が法令化されているという点です。裁判所で行われる民事調停などが該当します。
基本的な流れはあっせんの場合に似ていますが、裁判所の民事調停においては、裁判官調停委員(社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ人で、裁判所の選任に基づいて職務を行う人)が仲介を行います。最終的に調停において合意が成立すれば、合意内容は調停調書という文書にまとめられ、法的拘束力を伴います。

②訴訟

示談交渉の決裂、または、上記のADRに拠っても合意がまとまらないという場合は、司法による解決に委ねるべく、訴訟を提起することとなります。交通事故のみならず、訴訟提起は、紛争を終局的・実効的に解決することができますが、手続きが厳格であり、審理に時間を要する場合も多いため、紛争解決における最後の手段と言って差し支えないでしょう。

  • 最初から訴訟提起を検討すべきケースもある 

一般的に、紛争の解決にあたっては、できるだけ双方が納得できる内容で終わらせた方がよいと考えられています。それゆえ、示談交渉ADR訴訟という風に、話し合いによる解決を試みていきます。しかし、交通事故事件における争点によっては、むしろ司法的解決の方が望ましいとされるケースもあります。
例えば、

  • 事実関係に大きな争いがある、過失割合で揉めている
  • 損害賠償額が大きい
  • 後遺障害等級認定に争いがある

といったケースについては、ADRの利用を経ずに、すぐに訴訟を提起した方が、結果的に早く解決できる場合があります。

  • 訴訟の中でもまずは「和解」が検討される 

訴訟と聞くと、やはり裁判所が判断を下す「判決」をイメージする方が多いかと思いますが、訴訟における審理でも、まずは和解ができないかどうかが検討されます。双方の主張を積み重ねた上で、裁判所が心証を開示した上、和解案が開示されます。当事者双方が和解案に同意すれば、裁判上で和解が成立する運びとなります。

裁判上の和解についても、当事者双方の合意がなければ成立しません。仮に一方又は双方が和解案に同意しなければ、和解は不成立となり、判決による決着へと進んでいくことになります。

③示談か、ADRか、訴訟か…

ここまで説明したように、交通事故事件における一応の終着点としては、大きく、

  • 示談交渉による示談成立
  • ADRによる和解等の成立
  • 裁判上での和解成立あるいは判決

の三択があります。どの選択肢に拠ろうとするかは、様々なことを天秤にかけて考えてみる必要があります。

ADRや訴訟による解決を目指す場合は、どうしてもそれなりの時間がかかってしまいます。ADRの場合は3ヶ月~5ヶ月、訴訟の場合は半年~1年もしくはそれ以上という場合もあります。なので、

  • ADR・訴訟に委ねた場合の利益
  • ADR・訴訟に移行することによる手間や時間

の2つを天秤にかけてよく検討する必要があります。なお、「利益」を考える際には、「ADR・訴訟に委ねたとしても納得のいかない結果となるリスク」も併せて考えなければなりません。
そういう意味では、解決にかかる手間や時間・リスクを考えた時に、示談交渉を重ねる中である程度のラインで呑むという選択肢もあり得ます。

なお、争点によっては、ADR利用で早期解決が可能な場合もあります。重要な事実関係後遺障害の認定など専門性の高い項目について争う場合には、訴訟に委ねる方が望ましいと言えますが、「慰謝料の額に納得ができない」、「休業損害の根拠に争いがある」など、主に金額面で納得いかない箇所があるという場合には、ADRを利用することで手続費用も特にかからず早期に和解が成立する可能性があります。何故なら、ADRを利用した場合の第三者機関から提示される和解案についても、基本的には裁判基準に基づいて賠償額が算定されるからです。そのため、訴訟を経なくても裁判基準の賠償金が受け取れる場合があります。

5.弁護士に依頼する場合は…

以上、ここまで、交通事故事件が解決するまでどのような手順を踏んでいくかを大まかに説明させていただきましたが、弁護士への相談・依頼を検討する際に知っておいていただきたいことをまとめて説明させていただきます。

①弁護士費用特約への加入でさらに安心!

弁護士に相談・依頼する場合、弁護士費用や事件処理に関わる実費などがかかってしまいますが、もし、お客様の自動車保険に弁護士費用特約が付帯されていれば、弁護士費用や事件処理に関わる実費のほとんどを自分の保険会社が負担してくれるので、お客様の持ち出しをほとんど無くして弁護士に依頼することが可能となります。ここ十数年で加入率も急速に上昇し普及している特約になるため、もしもの備えとして付帯を強くお勧めいたします。
※弁護士費用特約利用のポイントやメリットは、以下の記事で説明させていただいていますので、併せてご覧ください。
⇒『弁護士費用特約はご存知ですか??

②弁護士介入のタイミングで費用が変わることは原則としてない!

弁護士への依頼は、事故直後~保険会社からの提示後(示談前)であればいつでも可能ですが、弁護士のサポート期間が長ければ長いほど、依頼者が享受するメリットは多くなるでしょう。交通事故事件解決までの道のりの中では、いつどのようなタイミングでトラブルや争いが表面化するかは分かりませんし、被害者にとって有利に解決するためには事故当初の行動が重要だったという場合も多くあります。もし当初から弁護士が代理人として就いていれば、未然にトラブルを予測し有利に解決するための行動をアドバイスできていたかもしれません。ですから、事故直後から弁護士に相談・依頼するメリットは非常に大きいと考えています
一方で、「サポート期間が長くなれば、それだけ弁護士費用も高くなるのでは?」と不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。前提として、弁護士費用特約を使用すれば、弁護士費用や実費は原則自分の保険会社が払ってくれるため問題ありませんし、一般的な報酬形態であれば、依頼の時期によって弁護士費用が変わる(高くなる)ということはありませんのでご安心ください。

当事務所の弁護士費用の基準でも、

  • 交渉に関する着手金は0円(報酬は経済的利益の11%+19万8000円(税込))
  • ただし、後遺障害の異議申立て・ADRや訴訟対応の場合は別途着手金がかかる
    ※弁護士費用特約の利用が無い場合の費用です。
    ※経済的利益とは、弁護士が代理人を務める種々の事件の報酬計算のもととなるもので、事件終了時に当事者が獲得した権利利益を金銭化したものです。時と場合によって経済的利益の算定方法は異なりますが、概ね損害額と考えていただいて問題ありません。

となりますが、交渉やサポートに関し、時期によって費用が高くなることはございません。

③弁護士費用特約を使用する場合でも、弁護士は自由に選べる!

自動車保険の弁護士費用特約を使用する場合、「弁護士は保険会社が指定する」と思っている方が一定数いらっしゃるのですが、どの弁護士に依頼するかはお客様自身で自由に選べます。ぜひ、被害者の利益を最大限に汲み取る弁護士を選択していただきたいものです
もちろん、選択の希望がない場合は、ご自分の保険会社が推薦する弁護士が紹介されることと思いますが、どのような弁護士を紹介されるかは分かりません。また、弁護士費用特約の利用にあたって弁護士の紹介を受けられるような制度もありますが、弁護士によって得意とする分野や知識経験・実績には当然差があり、必ずしも希望に合う弁護士を見つけられるとは限らないのです。

なので、まずはホームぺージ検索で交通事故事件に強い弁護士事務所を探した上で、印象の良さそうなところをきちんと見分けて選んでみましょう。当事務所においてもそうですが、まずは相談を実施することになりますので、相談をしてみた時の印象や事務所・弁護士の対応、説明の分かりやすさなどをもとに検討していただくことが重要です

6.まとめ

いかがでしたでしょうか。
かなり大まかな説明となりましたが、交通事故被害に遭った場合の損害賠償請求は、実に多様な手続を経て行っていくことになります。過失割合の決定にしても賠償の中身にしても、相手側から納得しがたい説明や主張があることは決して珍しい話ではありません。中には被害者感情を逆なでするような理不尽な主張や対応もあります。「私は被害者なんだから全部賠償してもらえる」と思っていてもそうはいかないのが交通事故です。
そのため、被害者の利益を少しでも守るためには、時点時点の行動や選択がとても重要になります。当事務所は、交通事故被害者専門の弁護士事務所として、交通事故被害に悩み、また、加害者側からの理不尽な主張や対応にお困りの方々に寄り添い、少しでも良い解決へと導けたらと考えております。

何かお困りのことがあれば、ぜひお気軽に当事務所までお問い合わせ下さい

7.リンク集

 

 

 
Copyright(c) 浜松の弁護士による交通事故法律相談所 All Rights Reserved.