後遺障害申請の異議申し立てとそのポイントの解説
※この記事は後遺障害申請の結果に対する異議申立てについて解説するものです。本請求としての事前認定・被害者請求といった後遺障害申請の内容を前提として作成していますので、まずは後遺障害認定手続についての記事をご覧になってから閲覧することをお勧めいたします。
⇒「交通事故の後遺障害とその認定手続について」
治療終了時点で残る症状について、後遺障害申請を行っても、非該当であったり、予想する等級より低い等級が認定される場合が多くあります。
しかし、後遺症に悩まされている被害者の方にとって、その結論は容易に受け入れられるものではないと思料します。その場合、改めて判断をし直してもらうという「異議申立て」という手続きがあります。
後遺障害の認定率や異議申立てでの認定率は?
後遺障害の認定は非常に狭き門です。身体に残る後遺症全てが後遺障害に当てはまるかというとそうではなく、調査機関である損害保険料率算出機構の自賠責調査事務所の認定基準をクリアしなければなりません。
損害保険料率算出機構が発行する「自動車保険の概況」を見ると、後遺障害のおおよその認定率を知ることができます。
※①保険金請求の受付件数とは、後遺障害申請のみならず、傷害部分の保険金請求などを含む、交通事故に関わる全ての保険金請求の件数を指します。そのため、後遺障害申請を伴わない請求事案も含まれていますので、予めご承知おきください。後遺障害申請のみの件数は、損害保険料率算出機構では非公開データとなっています。
※いずれのデータも、損害保険料率算出機構発行の自動車保険の概況より、機構の許可のもと加工及び引用をさせていただいています。なお、データの詳細については損害保険料率算出機構ホームページをご覧ください。
⇒『自動車保険の概況』(損害保険料率算出機構)
このように、統計上、後遺障害の認定率は非常に厳しい数値を示していますが、その中でも、認定基準や認定されやすいポイントを抑えて申請に臨むことで、等級認定の確率を高めることができます。
1.申し立ての方法と流れ
では、まずは異議申し立ての方法を具体的に説明していきます。
(1)提出先
提出先は初回の請求時と同じく、加害者側の自賠責保険会社です。その後も同じように、調査機関である、損害保険料率算出機構へと付託されます。
(2)請求方法
初回の請求時には、事前認定もしくは被害者請求という2種類の請求方法から選択することが可能でした。ざっくりと2種類の請求方法を改めて説明すると以下の通りです。
- 事前認定…加害者側の任意保険会社が請求の主体となって申請を行う方法。加害者側の任意保険会社が必要書類を揃えるため、被害者からは後遺障害診断書や印鑑証明書を送るだけで済む。そのため、被害者の負担は少ないというメリットがある。
一方で、加害者側の任意保険会社で全て書類を揃えることから、どのような書類を提出したかということを確認することができないほか、等級認定に有利な資料を積極的に提出しようとはしないため、調査結果については信憑性に欠ける可能性がある。また、等級が認定された場合の自賠責保険からの保険金は、対任意保険会社との示談が成立しないと振り込まれないというデメリットもある。 - 被害者請求…被害者自らが請求の主体となって申請を行う方法。手続きのために自ら必要書類を作成したり、病院で撮影した画像の取付を行ったりする必要があるため、どうしても一定の手間がかかるというデメリットはあるが、最低限必要な書類に加えて、後遺症の残存を正確に伝えるための資料を自由に選べるため、事実に基づいた調査が行われる可能性が上がるほか、等級認定による保険金が即座に自分の元に支払われるといったメリットがある。
異議申し立てにおいては、初回の請求時にどちらを選択したかで選択肢が変わります。
- 初回請求時に事前認定を選択した場合
⇒異議申し立ては事前認定か被害者請求のどちらかを選択できる - 初回請求時に被害者請求を選択した場合
⇒異議申し立ては被害者請求しか選択できない
(3)申立書類・資料
異議申し立てに必要な書類は以下の通りですが、初回の請求時と同じところに請求することから、いくつかの書類は作成や用意を省略できます。
それぞれの書類に★マークがついているものが省略可能と思われますが、詳しくは自賠責保険の担当者に確認してみるようにしてください。
【基本書類】
- 異議申立書…異議申し立ての基本となる書式です。決まった様式や書き方はありませんが、宛先、日付や請求者の住所といった基本情報に加えて、異議申し立ての趣旨や理由などを記載する必要があります(「異議申立書の書き方」)
- 支払い請求書兼支払指図書★…請求者の基本情報や、保険金が支払える場合の支払先口座情報を記入するもの(初回の請求時と別口座を指定したい場合などには作成が必要です)。
- 印鑑登録証明書★…請求者のもの。
- 交通事故証明書★…事故の存在を証明するもの。自動車安全運転センターが発行。
【任意で必要となる書類や資料】
- 新たな後遺障害診断書…初回の請求時に診断書の不備や不記載事項があった場合には提出が必要となります。
- 医師の意見書…残存する症状や交通事故との因果関係について、医師の見解を示してもらうものです。画像診断を行った場合の見解なども示してもらうことで、他覚的所見があることなどの信憑性も高まります。
- カルテ(診療録)…治療当時の問診内容や治療内容を記した病院の記録です。診断書・診療報酬明細書に比べて詳細な事項が記されているため、被害者の症状の訴えの一貫性を探る上ではかなり有用です。
- レントゲン、CT、MRIなどの検査画像…治療当時に撮影したものや、後遺障害診断時及び以降の検査で撮影した画像などが対象となります。初回の請求時に提出した画像でも、再び提出を求められるのが通常です。
- 日常生活状況報告書…被害者の症状の詳細や日常生活で困っていることなどについて記載するものです。基本的には家族や被害者の介助者が作成するものです。高次脳機能障害による後遺障害等級の獲得を目指す場合にはほぼ作成は必須です。
- 神経学的検査の推移をまとめた資料…頚椎捻挫(むち打ち)や腰椎捻挫に伴う神経障害の残存を主張する場合には重要となるもので、治療期間中の神経学的検査や神経障害の内容を時系列順に示すものです。自賠責保険上の規定の書式があります。
- 被害者本人の陳述書…残存する症状の詳細や、日常生活(仕事など)で生じる具体的な不都合などを、被害者本人の言葉で記載するものです。
- 事故車両の写真や損害額を示す資料(物損資料)…事故により被った衝撃の程度などを示すための資料となります。
※異議申立書の書き方
異議申立書の決まった様式や書き方は特にありませんが、異議申し立ての表紙のような役割を果たすことから、いくつか記載すべき項目があります。
- 宛名
- 日付
- 請求者の住所・氏名・連絡先
- 事故日・自賠責証明書番号(いずれも事故証明書に記載されています)
- 添付書類や資料の一覧
- 異議申し立ての趣旨(認定を求める症状や、相当と考える等級)※重要
⇒「○○の症状について、後遺障害等級第△△級△号が認定されるべきである」というように記載します。 - 異議申し立ての理由 ※重要
⇒認定を受けた等級や非該当が不合理であることや、残存する症状が相当と考える等級の認定基準を満たしていることを、揃えた資料をもとに具体的に主張することが求められます。
(4)申請や審査の流れ
請求者が異議申し立てを行い、等級結果が届くまでのおおまかな流れは上記の通りです。
損害保険料率算出機構の調査の過程で、被害者本人の通院先に医療照会を行う場合もあります。また、請求者に対しても、申立内容の確認が行われたり、調査に必要な資料の追加提出依頼があったりします。
※異議申し立ての結果が出るまでにかかる期間の目安は?
異議申し立てにかかる損害保険料率算出機構の調査は、初回請求時と比べ特に慎重かつ詳細な調査や審査が行われます。そのため、期間としては概ね2ヶ月から4ヶ月、長いものになると半年から1年というケースもあります。
後遺障害の調査については、基本的に一定の地域区分ごとに設置されている地域調査事務所が調査を担当しますが、高次脳機能障害や非器質性精神障害その他認定が困難なケースや、異議申立事案は、自賠責(共済)審査会における審査が行われるよう取り扱われています。また、異議申し立て時は詳細な調査が行われることから、機構から医療機関への照会等が行われるケースがほとんどと言えます。これらが、初回請求時より期間を要する理由です。
2.どのような書類を提出するべきか?また原因の究明の仕方は?
もっとも、一度出た判断を覆すためには、後遺障害の存在について新たな証拠や資料等を提出し、説得的な主張をしていかなければなりません。そのため、
- 認定を受けた等級や、非該当であることが不合理であること
- 被害者の身体に後遺障害に該当する症状が残存していて、尚且つ等級の認定基準を満たしていること
を具体的に指摘することが重要です。
以下には、どのような書類を整え、そしてどのように考えるべきかというところを一つの案として掲載しますが、被害者ご自身で異議申立ての準備を行うことは非常に難しいことです。ぜひ、弁護士に相談してみてください!
(1)どのような書類を提出すべきか?
①神経学的所見の推移について
主に、後遺障害等級12級13号を獲得するために重要な点ですが、医師の診察の中でスパーリングテストやジャクソンテストといった検査が行われ、陽性と判断されているか、また結果がどのように推移しているかが重要です。神経の走行によって、どの部位に症状が出るかが決まっていますので、痛みや違和感をきちんと正確に伝えるようにすることが大切です。
②愁訴の一貫性
愁訴とは、「医学的な証明が明確にはできないが、本人が確かに感じているとされる自覚的症状」です。後遺障害等級12級13号については、他覚的所見がひとつの基準として重要であり、本人の訴えと、その症状とを結びつける医学的根拠が存在する必要があります。一方で、後遺障害等級14級9号は、この他覚的所見はないものの、事故当初から症状固定までの痛みが継続し、一貫していること、またそれが、単なる故意の誇張ではないことなどが要件となっています。
これらを客観的に証明するものとしては、初回の被害者請求時に提出した診断書及び診療報酬明細書に加え、病院が記録するカルテ(診療録等)が有用です。診断書等には記載されていない本人の訴えや細かい診察の状況が記載されている可能性が大いにあるため、開示請求を行い、資料とすることも1つの方法です。
③休業損害及び収入減少の裏付け資料、日常生活動作の不具合の陳述書
後遺障害に基づく休業やそれに伴う収入減少が起きていることが証明できれば、後遺障害や痛みの残存を客観的に証明できる材料となり得ます。また、具体的な日常的動作における障害を訴えたり、家族など客観的な目線から感じる不具合を陳述したりすることも重要です。後遺障害の取得を見据える場合には、具体的にどのようなところに不具合があるかを、メモでも構いませんので記録しておくと良いでしょう。
神経症状の残存については、「なんとなく痛い」という程度では後遺障害には当てはまらず、その症状の残存によって仕事や日常の生活においてこのような不具合・不都合が生じているという具体的なエピソードがあると説得的となります。また、主観的な話のみではなく、家族などの第三者目線でのエピソードもあることで、より信憑性が増すこととなります。
④物損事故の程度を表す資料
後遺障害と事故時の衝撃には、一定以上の関連性があります。物損の度合いが大きければ、本人にかかった衝撃も相当程度のものがあったということを証明してくれるでしょう。調査事務所の担当者によっては、追加でこのような資料の提出を求めてくる場合もあります。物損事故の程度を表す資料は、必ず被害者側と加害者側双方のものが必要です。
(2)原因の究明の仕方は?
(1)にも関連することですが、「なぜ後遺障害が認められなかったか」、そして「どの点に着目すれば認定の可能性を上げられるか」という点に注目することが重要です。具体的な調査事項の例としては以下の通りです。
①事故態様の確認
交通事故が起こったことが全ての因果の起点ですから、重要な情報です。刑事記録、双方の物損関連資料、車載カメラがある場合には車載カメラなどが有効です。
②初期診断名の確認
整形外科的な症状は、初期の症状が一番重いのが一般的です。そのため、受傷初期に診断名が抜けていると、受傷初期に症状がなかった、すなわち事故との因果関係が無い症状であると判断されやすくなってしまいます。これらについては、経過診断書、診療報酬明細書の確認はもちろんのこと、医療記録(カルテ)や、されには初診時の問診票などを確認することが有用となるケースもあります。
③残存症状の発生、残存理由ははっきりしているのか
これは、現に残存している症状が発生していること、また、残存している理由が他覚的に確認できるか、どうかというところです。こちらについては、医療機関で撮影した画像による所見、医学検査の所見、それらを踏まえた医師の意見書等が有用です。
なお、頸部腰部捻挫等(いわゆるむち打ち)については、残念ながら他覚的所見が無いというのが一般的ですが、「画像所見がなくとも、痛みの残存は、末梢神経の異常により起こり得ることは医学界において確立されています」ので、画像から異常が確認できないという理由は、後遺障害を直ちに否定する理由とはなり得ません。
④検査結果は揃っているか
医師の診察の過程で行われる諸検査も、目的ごとに様々です。症状ごとの原因究明の検査と、症状の重さを測定する検査などがありますので、請求目的の後遺障害に対応した検査資料を揃えることが必要です。
⑤症状の経過
症状は一貫性を持ち合理性があるかどうか、典型的な治療経過をたどっているかどうかという点になります。当然ですが、後遺症というのは懸命な治療を経てなお残る症状ですので、痛みが一貫していない、また、行われるべき治療が定期的に行われていないという場合には、否定材料となり得てしまいます。
⑥他原因の否定
この究明は必ずしも必要ではありませんが、事故以外の傷病や発生原因を否定する必要性がある場合もあります。これは、医師が傷病を特定する過程でも用いられる方法で、同様の症状を引き起こす傷病を除外する診断をするケースが多いです(『これ以外の原因がない』という考え方)。
3.弁護士に後遺障害の異議申し立てを依頼するメリット
何度か述べていますが、後遺障害の認定自体統計的に非常に狭き門です。そのため、異議申し立てによって認定結果を覆すためには慎重な検討と入念な準備が必要です。ですが、それらを被害者自身で全て手掛けるのは大変な労力を必要とします。
以下には、後遺障害の異議申し立てを弁護士に依頼した場合のメリットを説明させていただきます。
(1)手間や時間を節約できる
異議申し立てを行うにあたっての検討や資料の準備、異議申立書の作成などを弁護士に全て任せる事ができます。
手続き方法については、『後遺障害の存在にかかる疎明資料を自分の裁量で用意できる被害者請求を選択した方がいい』ということが多く述べられていますが、同時に被害者自身で資料を揃えなければならないという手間がデメリットとして挙げられます。その準備を全て弁護士に任せられるとしたら、むしろ被害者請求を選択しない理由がありません。
(2)後遺障害申請や異議申し立てのノウハウを持っている
交通事故に詳しい弁護士であれば、多くの交通事故事件を通じて後遺障害申請や異議申し立て手続きを経験しており、どのようにしたら後遺障害が認定されやすいかや準備に際しどのような手順を踏めばいいかなどのノウハウを多く持っています。交通事故の損害賠償の専門家に異議申し立てを依頼することで、認定の可能性を大きく高めることができるでしょう。
例えば、主治医に症状の残存について意見を聞く場合ひとつを取ってみても、被害者ご自身の対応では、「どういったことを聞けばいいのか」と分からなくなってしまうことがほとんどではないかと思います。一方で、決して全ての医師が交通事故の後遺障害の認定というカテゴリーについて詳しい訳でもありません。その点交通事故に詳しい弁護士であれば、被害者の受傷内容や後遺症としての自覚症状を分析し、医師へのアプローチ内容をノウハウから適切に導くことも可能です。
(3)認定後の示談交渉においても高額な賠償金が期待できる
異議申し立て等を通じて後遺障害等級が認定されると、加害者側との示談交渉が始まります。
弁護士に示談交渉を依頼すると、被害者の損害額を算定するにあたってより高水準な裁判基準を用いての算定が可能となります。特に、後遺障害部分に当てはまる後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益は、交通事故の損害賠償請求において大きなボリュームを占める上、自賠責基準や損保会社基準と裁判基準では算定額に大きな差があります。
仮に、後遺障害が認定された後の示談交渉のみを弁護士に依頼するだけでも、非常に大きなメリットがあります。
⇒併せてご覧いただきたい!
「保険会社の提示を鵜呑みにしないでください!!」
4.異議申し立てを行うにあたっての注意点
(1)必ずしも判定が覆る訳ではない
この点はくどいほど申し上げていますが、異議申し立てによる等級変更率は約15%と統計上かなり低確率です。決して可能性が無いという訳ではありませんが、異議申し立てを行い、数ヶ月待った結果変更がないという場合も多いのです。当事務所の弁護士においても、お客様の要望に応え全力で対応をさせていただきますが、結果を保証するということはどうしても出来かねますので、予めご理解の程よろしくお願いいたします。
(2)異議申し立てを行う分、最終的な解決も遅くなる
後遺障害の請求及び認定が不服の場合の異議申し立てにはかなりの日数がかかります。被害者のもとに賠償金が支払われるのは、最終的に事件が解決してからとなりますので、異議申し立てを行う場合には、そういったデメリットも把握しておく必要があります。
(3)資料の収集にあたって費用が掛かる
異議申し立てを検討する際には、後遺障害の存在を立証するために様々な調査を行うことが求められます。カルテ(診療録)の開示や、新たな検査の実施、医師の意見書執筆依頼、撮影画像の医学鑑定など、それぞれかなりの費用が掛かります。
この点について、弁護士費用特約で弁護士に依頼している場合、そういった費用も特約の範囲内で保険会社が負担してもらえる可能性があります。被害者自身が対応する場合、費用の高額さから資料の収集を躊躇してしまう可能性もあるのではないかと思いますが、特約を使用して弁護士に依頼することで、費用面を気にせず収集ができることも大きなメリットではないかと思います。
※費用の種類や項目によっては、保険会社との協議が必要となる場合もあります。
※弁護士費用特約で支払える費用も、総額的な制限があります。
⇒併せてお読みいただきたい「弁護士費用特約はご存知ですか??」
5.異議申し立てが認められなかった場合は?
異議申し立て自体も、残念ながら必ず認められるとは限りません。統計上も等級変更率は約15%となっています。異議申し立てが実際に功を奏さなかった場合にどのような選択肢があるでしょうか。
(1)再度の異議申し立てを行う
異議申し立ての結果に対しても、更に異議申し立てを行うということが可能です。異議申し立ての回数には制限は設けられていません。そのため、異議申し立ての結果の内容を分析した結果として、再度の申し立てによる認定の可能性が見いだせる場合には、1つの選択肢となり得ます。
ただし、1度目の異議申し立てで請求が認められなかった場合には、より詳細かつ専門的な検討や準備が必要となる可能性が高いことは言うまでもありません。
(2)自賠責保険・共済紛争処理機構へ申し立てる
一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構というところが行う事業として、自賠責保険・共済の保険金や共済金の支払いに関し生じた紛争を解決するための「調停(紛争処理)事業」というものがあります。各自賠責保険会社や損害保険料率算出機構とは別の第三者機関であり、後遺障害の認定に関する事案についても、公正中立で、専門的な知識をもっている弁護士・医師・学識経験者等からなる紛争処理委員が審査し判断を下します。申し立てに当たっての費用も原則としてかかりません。
後遺障害申請の実質的な調査機関たる損害保険料率算出機構とは別組織であることから、別方面からの検討が図られる可能性もあり、後遺障害が認定されたり、等級が変更されたりする可能性もある…と申し上げたいところですが、近時の申請においては、異議申し立ての結果を追認するのみで、結果が変わらない判断が相次いでいるようです。
ただし、利用にあたってはいくつかの注意点があります。
- 当事者の出席は必要ない
⇒「調停」という言葉が使われているものの、裁判所の調停とは違い、当事者が期日に出廷して直接主張を述べるということはありません。基本的に書面審査になるため、自らの主張をきちんと書面の中に書き入れる必要があります。 - 利用は1事案につき1回のみ
⇒異議申し立てのように何度も利用できる訳ではありません。また、本調停によって判断が下された事案について、再度自賠責保険会社に異議申し立てをするということもできません。 - 異議申し立てを一度は経由した案件のみ
⇒自賠責保険の結論の妥当性を判断する手続きであるため、異議申し立てを経た事案のみ申し立てが可能となります。 - 追加資料の提出も一応は可能
⇒従来の運用としては、既に自賠責に提出した資料の範囲でのみ調停が進行していくという取り扱いでしたが、令和5年8月より運用が改訂され、追加資料も含めた最終判断も可能となっています。ただし、機構からは、新たな資料がある場合には、それを元にした異議申し立てを勧められるようです。
(3)訴訟提起する
後遺障害の存在や等級については、訴訟提起を通じて認定される場合もあります。異議申し立てが認められなかった場合や、紛争処理機構を利用しても判断が覆らなかった場合には、訴訟提起も検討する必要があります。実際に、訴訟提起の結果として等級が認定されたり、変更されたりしたケースは少なくありません。
訴訟提起する際は、その他の人身損害の解決も含めて行ってしまうことで、包括的かつ終局的に事件を解決できますが、訴訟による解決が一番最後の手段となりますので、その結果を持って一切が終結することになります。
詳しくは、以下のページで解説していますので、ぜひご参照ください。
⇒「訴訟で後遺障害を争う場合について」
また、訴訟に係属する場合は、より専門的で複雑な手続きを必要とするため、一般の方の対応は非常に難しいのが実情です。後遺障害を争うとなればなおさらです。弁護士によるサポートを強くお勧めいたしますので、ぜひご相談ください。
6.まとめ
ここまで、後遺障害の異議申し立て方法やそのポイントについて解説してきました。
当事務所においても、これまで、異議申し立ての結果後遺障害の認定を受けたというケースを何度も経験しています。後遺障害認定は決して一発勝負ではありませんので、後遺障害に該当しないという判断が一度なされてもそこで諦める必要はありません。
事故後、身体が完全に回復することが最も望ましいことは言うまでもありませんが、仮に症状が残ってしまった場合、それに応じた適切な補償を受ける必要があります。
判断が難しい場合は、ぜひ専門家の力を頼っていただきたいと思います。
当事務所では、1回目の申請の前である治療中から弁護士にご相談いただくことをおすすめしていますが、後遺障害認定結果が出た後になっても十分ご相談いただく価値はあります。
ぜひ、お気軽にご相談ください!!