任意保険と損害賠償請求上のメリット

自動車を運転する方・購入する方にとって、自動車保険への加入は大変に重要なことです。万が一自らが交通事故の加害者となってしまった場合に、被害者への賠償に備えるということはもちろんですが、被害に遭った時に助けとなってくれる保険や特約も多くあります
ここでは、自動車の任意保険の基本から、被害に遭った際に有用な保険や特約について解説したいと思います。
今一度、自らの自動車保険を見直す機会となれば幸いです。

0.目次

1.任意保険とは?~自賠責保険と任意保険~
 (1)自賠責保険
 (2)任意保険

2.任意保険の種類や特約
 (1)対人賠償保険、対物賠償保険
 (2)個人賠償責任保険(特約)
 (3)人身傷害(補償)保険、搭乗者傷害保険
 (4)自損事故保険
 (5)無保険車傷害保険(特約)
 (6)車両保険
 (7)各種特約
  ★弁護士費用特約
  ★運転者限定特約
  ★ファミリーバイク特約
  ★他車運転危険補償特約
  ★対物超過修理費用特約
  ★人身傷害諸費用特約
  ★無過失特約
  ★全損時諸費用特約
  ★新車特約
  ★ロードサービス費用特約
  ★レンタカー特約

3.まとめ

1.任意保険とは?~自賠責保険と任意保険~

自動車保険は基本として、自動車の運転中、万が一事故を起こしてしまった場合に備えるものですが、大きく自賠責保険任意保険の2つに分類されます。

(1)自賠責保険

正式名称を「自動車損害賠償責任保険」といい、原付を含めた全ての自動車に対し加入が義務付けられている保険です。自賠責保険に関わる運用は、全て自動車損害賠償保障法(通称自賠法)に基づいています。加入が義務付けられていることからしばしば「強制加入保険」・「強制保険」とも言われ、無保険運転は違法となります

自賠責保険は、交通事故の被害者救済を目的に最低限の補償を提供するものです。
そのため、補償の対象としては対人賠償(交通事故で怪我をさせた人に対する補償)に限られます。車両の損害などいわゆる物損は対象となりません。また、加害者自身の怪我などについても補償対象ではありません。また、最低限の補償であることから、補償金額について限度額、つまり一定の限界が存在します

自賠責保険の仕組みや補償内容については別ページで詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
⇒「”自賠責保険”について

(2)任意保険

任意保険」という名称は、自賠責保険が「強制保険」と呼ばれることに対して用いられており、その名の通り加入するか否かは任意です。
加入の大きな目的は、なんといっても自賠責保険では補いきれない損害をカバーすることです。上記で説明した通り、自賠責保険での補償対象や補償額には限界があるため、補いきれない損害は加害者自身が賠償しなければなりません。そういった部分を補填する役割として任意保険という存在がある訳です。

任意保険については、保険会社毎に様々な商品が販売されていますので、自らの状況や希望を考え、必要なものを見極めることが非常に需要です。中には、自らが被害者となった時に有用なものも多くあります。
任意保険の構成は「基本補償」と「特約」で成り立っています。

  • 基本補償…自動車保険の基本となる補償(○○保険という名称のもの)。
  • 特約…基本補償をカバーするオプション。特約のみの加入はできない。

2.任意保険の種類や特約

では具体的に、任意保険にはどのような種類や特約があるのか説明していきたいと思います。保険や特約についての説明はもちろん、「交通事故の被害者となった場合にどのように有用となるか」という点についても触れていきたいと思います。
任意保険の種類や特約には、一般的には以下のようなものがあります。ただし、保険会社毎に名称や体系は様々ですので、あくまで一般的なものであることを予めご理解ください。

(1)対人賠償保険、対物賠償保険

任意保険の加入目的でも説明した、交通事故の相手の身体の損害(人身損害=人身)や車両などの損害(物的損害=物損)など、自賠責保険では補いきれない損害を補償するための保険です。まず、物損はそもそも自賠責保険の補償の対象外です。また、人身については、自賠責保険での補償には限度額があるため、被害者側に限度額を超えるような損害が生じている場合、差額の賠償の必要が生じます。細かい説明はここでは省きますが、傷害部分で120万円、後遺傷害部分で75万円~4000万円、死亡部分で3000万円という限度額が設けられています。それぞれ該当する場合の実際の損害額は、これを超えるケースがほとんどです。また、人身の損害額算定基準には、自賠責保険で用いられる基準(自賠責基準)の他に、損害額がより高額になる損保会社基準及び裁判基準(弁護士基準)があるため、被害者側がより高額になる基準を用いて請求してきた場合にも、自賠責保険では補いきれなくなります。
どれだけ気を付けて運転をしていたとしても、交通事故の加害者になるリスクを完全に無くすことはできません。万一自らが交通事故の加害者となってしまった場合に、対人・対物賠償保険に加入していれば安心でしょう。

 示談代行サービスについて 

自動車保険のCMでもよく見かけると思いますが、示談代行サービスとは、交通事故の損害賠償について、当事者に代わって保険会社の担当者が示談交渉を行ってくれるというものです。当事者同士だと感情的な衝突が危惧されますが、保険会社の担当者が代わりに対応してくれることで、精神的な負担の軽減も期待できますし、交通事故に係わる損害の算定実務は一般の方にとっても理解が及ばず難しい部分も多いため、そういった部分をプロに任せられるというのは当事者にとって嬉しいものがあると思います。
ただし、適用の例外として、「被害者に過失が無い場合」には示談代行サービスの利用ができません。何故かと言うと、この示談代行サービスは対人・対物賠償保険に付保されているサービスであり、同保険の適用の必要性があって初めて利用可能となるサービスであるからです。被害者にも過失がある場合、被害者の過失分については賠償責任を負うと考えられるため、同時に示談代行サービスの利用も可能となる訳ですが、被害者側が無過失の交通事故については加害者側への賠償責任が発生しないため、示談代行サービスも利用できないということになります。

(2)個人賠償責任保険(特約)

個人賠償責任保険(通称:個賠(こばい))とは、日常生活において、自身の過失から他人に怪我をさせてしまった場合やモノを壊してしまった場合の民事上の損害賠償責任に備えるための保険です。例えば以下のようなケースです。

  • 自転車運転中に歩行者にぶつかって怪我をさせてしまった
  • 買い物の最中に商品を壊してしまった
  • 自分の子どもが友達と遊んでいるときに怪我をさせてしまった
  • 飼い犬の散歩中に、通行人に噛みついて怪我を負わせてしまった

交通事故に限らず、日常生活における広い範囲の損害賠償に備えることができるものです。保険商品によっては、各種保険の特約として付保できるケースもあります。
自動車による交通事故の場合には対人・対物賠償保険が利用できますので、自動車事故とは一見無縁ですが、例にも書いている通り、自転車に乗っている最中の事故に利用できる点が大きいでしょう。
なお、個賠を利用して保険金を支払う事故はノーカウント事故として扱われるため、保険料の上昇等が起こらないのも大きなメリットです

自転車事故(被害者側)におけるメリット ~相殺払いとクロス払い~

自転車事故の加害者側である場合に、相手方への損害賠償として個賠が利用できるのは言うまでもありませんが、被害者側になった時でも、個賠の存在が有利に働く場合があります。

例えば、自転車に乗っているAさんが、同幅員の交差点にて自動車(運転手Bさん)と接触する事故が起こり、過失割合が8:2(自転車側)だったとしましょう。物的損害の賠償割合については、

  • Bさん…Aさん側の物的損害の8割を賠償しなければならない
  • Aさん…Bさん側の物的損害の2割を賠償しなければならない

となり、Aさんにも過失があることから、Bさんの物的損害(自動車の修理費)のうちの2割を賠償する義務が生じますが、もし、Aさんが個人賠償責任保険(特約)に加入していれば、Bさんへの賠償分を保険で対応することが可能になります。
ところで、例のように双方の損害を支払い合う必要がある場合、その方法として相殺払いクロス払いの2種類が存在します。

  • 相殺払い…互いの賠償額を相殺し、差額が生じた分だけを一方から他方に支払う
  • クロス払い…相殺はせず、単純にお互いの賠償額を支払い合う

Aさんの物的損害額が合計2万円、Bさんの物的損害額が合計20万円だったとします。この場合に、相殺払いとクロス払いではどのような違いが生まれるでしょうか。

  • 相殺払いの場合
    ・Aさんの賠償額は20万円(Bさんの物的損害額合計)×0.2(Aさんの責任割合)=4万円
    ・Bさんの賠償額は2万円(Aさんの物的損害額合計)×0.8(Bさんの責任割合)=1万6000円
    よって最終的にAさんからBさんに2万4000円(4万円-1万6000円)を支払う必要がある
    (Aさんは被害者だが、物的損害については加害者であるBさんに対し一方的に支払う必要がある)
  • クロス払いの場合
    AさんはBさんに4万円BさんはAさんに1万6000円を支払う必要がある
    (Aさんの元に1万6000円が入ってくるが、同時にBさんに4万円を支払わなければいけない)

このような違いが生じる場合に、もしAさんが個賠に加入していたとしたら、クロス払いにおいてBさんに支払うべき4万円を保険で対応できることになります。しかも、個賠の利用で保険料が上昇することもないとなれば、Bさんへの支払いについてAさん自身の懐は全く痛まずに賠償を受けることができるようになります

上記のように、自転車側にも過失がある交通事故の場合、個人賠償責任保険が有利に働くことがあります。普段から自転車に乗る方は、ぜひとも加入しておきたいものです。

(3)人身傷害(補償)保険・搭乗者傷害保険

人身傷害(補償)保険とは、自動車に搭乗中の契約者が自動車事故により死亡したり、怪我を負った場合に保険金が支払われるものです。対人賠償保険が事故の相手の怪我などを補償する保険であるのに対し、人身傷害保険は契約者自身の怪我を補償する保険です。
搭乗者傷害保険も似たような保険で、契約車両に搭乗する人(運転手を含む)が交通事故で怪我をした場合に保険金が支払われるものです。

まずは、人身傷害保険と搭乗者傷害保険の特徴や相違点を表で確認していきましょう。

一番の相違点は、支払われる保険金の算出方法です。人身傷害保険の場合は、交通事故に遭った際の人身損害項目について、実際にかかった額や保険会社基準で計算された額が支払われますが、搭乗者傷害保険の場合は、怪我の部位と症状、入院の有無や期間、通院日数などによって定額が算出されます。この金額については搭乗者傷害保険の契約当時の内容によります。生命保険の保障にもよくある、傷害の一時金のようなものであるといえるでしょう。
人身傷害保険に基づいて支払われる保険金は、実際の損害額に対する補償のため、加害者側から補償として賠償金や保険金が支払われた場合には、その分は控除されなければなりません。一方で、搭乗者傷害保険に基づいて支払われる保険金は、損害の補償に関係なく受け取れる保険金です。そのような意味では、搭乗者傷害保険による保険金は、見舞金的な、基本損害へのプラスアルファの補填とも言えるでしょう。

人身傷害保険加入のメリットその1:加害者側からの賠償を受けられない場合でも保険金を受け取れる

もしかすると、このページをご覧いただいている方の中には、「交通事故に遭ったら加害者側から賠償してもらえるのに、何故人身傷害保険に加入する必要があるの?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、交通事故に遭ったら必ず加害者が損害を賠償してくれる訳ではありません加害者が任意保険に加入していないケース保険料を滞納していて自賠責保険も機能しないケースひき逃げで加害者が不明なケースなど、充分な補償を得られなかったり、全く賠償される見込みが無かったりする場合もあります。
そのような場合、人身傷害保険に加入していると、自分の保険会社が保険金を支払ってくれますので、加害者からの十分な賠償が見込めない場合でも安心です。事実、日本における自動車の任意保険加入率はおおよそ9割で、年々加入率は上がっているものの、走っている車のおよそ10台に1台は任意保険の加入がないことになります。当事務所における交通事故のお客様についても、「相手が無保険(任意保険の加入無し)で困っている」という趣旨のご相談は決して珍しい事ではありません

人身傷害保険加入のメリットその2:自損事故による怪我なども補償の対象になる

交通事故に遭った場合に、相手方から何らか賠償をしてもらえる場合はまだ良いですが、例えば「操作を誤って電柱や壁に衝突した」とか「交通事故の加害者で自分に100%の責任がある」という事故である場合、前者はいわゆる単独事故・自損事故であり、事故の当事者は自分しかいませんし、後者の場合は過失割合が100:0となることから、自分が負った損害は全て自分自身で負担しなければなりません。
このようなケースにおいて自分が怪我をした場合でも、人身傷害保険から補償を受けることが可能です。(この点については、後に説明する自損事故保険と重複する部分があります。詳しくは自損事故保険の説明をご覧ください。)

人身傷害保険加入のメリットその3:過失割合に関係なく保険金が支払われる

人身傷害保険からの保険金は、過失割合の影響を受けないのが大きな特徴です。
例えば、過失割合7:3の交通事故において、被害者側の人身損害が合計100万円だったとします。この場合、過失割合が7:3であることから、加害者側に請求できる金額は100万円×0.7=70万円となり、加害者側の責任割合分しか請求できません。残りの30万円分は、自分自身の過失として自己負担となってしまいます。
しかし、人身傷害保険から保険金が支払われる場合、過失割合による減額の適用がありません。もし人身傷害保険の計算基準で計算し、合計100万円が支払えるということになれば、損害額満額を受け取る事ができます。
このように、人身傷害保険は、被害者自身にも過失がある交通事故において、過失分をカバーできる可能性があるのです。

※上記の例において、例えば加害者側からの賠償金として先行して70万円が支払われた場合、人身傷害保険で算定された過失割合を考慮しない保険金の方が高ければ、その差額が受け取れる可能性があります。ただし、人身傷害保険で支払われる保険金は基本的に人身傷害保険の基準で算出されます。弁護士が代理人として就き加害者側に裁判基準で損害の請求を行っている場合には、人身傷害保険で支払い可能な保険金の方が低くなり、過失分のカバーができない可能性もありますのでご注意ください。

(4)自損事故保険

自損事故保険は、自損事故により運転者や同乗者が死傷した場合に補償を受けられる保険です。自損事故というのは「運転操作を誤って電柱に衝突してしまった」、「ハンドル操作を誤って崖から転落してしまった」といった相手方のいない事故のみならず、追突事故を起こしてしまったなど過失100%の加害者事故も含まれます。

人身傷害補償保険との比較

人身傷害補償保険が同様に自損事故における死傷も対象となる事から、人身傷害補償保険と自損事故保険は補償内容がかなり被る傾向にあります。むしろ、人身傷害補償保険の方が対象となる範囲や補償内容が広く、人身傷害補償保険の方で保険金が支払える場合には、自損事故保険は適用されないのが原則です。そのため、多くの保険商品においては、人身傷害補償保険と自損事故保険が同時にセットされることは無い場合が多いようです。
補償内容については、人身傷害補償保険が、一般的な損害費目について人身傷害補償保険基準で計算された保険金(ただし契約時に保険金額の限度設定あり)が支払われるのに対し、自損事故保険ついては、保険金額がある程度定額になっている場合が多いと思われます(死亡保険金として○○○○万円、医療保険金として入院1日あたり△△△△円・通院1日あたり✕✕✕✕円など)。

搭乗者傷害保険との比較

搭乗者傷害保険との関係は、人身傷害補償保険と搭乗者傷害保険の関係に似たものがあります。
自損事故等により死傷した場合、自損事故保険と搭乗者傷害保険の両方に加入していれば、両方の基準で保険金を受け取れる可能性があります。

(5)無保険車傷害保険(特約)

無保険車傷害保険は、交通事故の相手方(加害者)が任意保険(対人賠償保険)に加入していないなど、相手側から十分な補償が受けられないケースにおいて、自分の保険会社から保険金を支払いを受けられるものです。保険会社によっては対人賠償保険を基本補償とした特約で付保できる場合もあるようです。
この説明だけ聞くと、人身傷害補償保険と何か被るものがあるのでは?と思う方がいるかと思いますが、人身傷害補償保険でカバーできない部分の損害を補填できる可能性があり、そのような意味で人身傷害補償保険を補完する保険となっています。

無保険車傷害保険の基本的な特徴は以下の通りです。

特徴は何といっても、補償内容が死亡・後遺障害による損害のみというところです。被保険者が無保険車事故に遭い死亡または後遺障害を被った場合、その部分の損害は特に高額となることも珍しくありませんが、相手が無保険(及び対人賠償保険が利用できない)であると、その点について十分な補償がされない恐れがあります。無保険車傷害保険はそういった部分をカバーするための保険であります

支払われる保険金の元にもなる、死亡・後遺障害による「実際の損害額」は、基本的には保険会社の対人賠償保険基準で計算された金額となります。ただ、保険会社によっては人身傷害補償保険基準の金額(対人賠償保険基準に比べると低額の傾向あり)が基本となる場合もあるようです。

人身傷害補償保険との関連性

無保険車事故に該当するケースにおいて、被害者が人身傷害補償保険と無保険車傷害保険の両方に加入している場合、まずは人身傷害補償保険の支払いが先行します。人身傷害補償保険の支払いを以てしてもなお実際の損害額に届かない場合、本来は差額を加害者側に請求するところ、無保険車傷害保険に加入していれば、その差額も保険金として支払ってもらえるということになります。

※そもそもとして、無保険車傷害保険では傷害部分を対象としていないため、傷害部分(治療費・付添費・通院交通費・休業損害・入通院慰謝料など)は、無保険車事故においては加害者側の自賠責保険及び人身傷害補償保険による補償が必要不可欠といっても過言ではありません。

人身傷害補償保険においても、死亡部分や後遺障害部分として保険金が支払われます。

  • 死亡部分…死亡慰謝料、近親者慰謝料、死亡逸失利益 etc.
  • 後遺障害部分…後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益

ただし、すでに説明していますが、「実際の損害額」といっても、その算定は保険会社の対人賠償保険基準(場合によっては人身傷害補償保険基準)で行われることが基本のようですので、大きな差額は生まれにくいのではないか?というのが正直なところです。

ひとつ大きなメリットがある可能性としては、被害者が死亡したり重篤な後遺障害が残ったりし、損害額が非常に高額となり人身傷害補償保険の支払上限額を超えてしまった場合です。

人身傷害補償保険は、1件の交通事故で被保険者1名辺りに支払われる保険金額に上限額を定めて契約しますので、損害額が高額となり上限額を超えてしまった場合は上限額までしか保険金が支払われません。このような場合、無保険車事故に該当すれば、無保険車傷害保険を用いて、人身傷害補償保険の支払上限額を超える部分の金額も併せてカバーできることになります

このように、無保険車事故の場合であっても、基本的な人身損害は人身傷害補償保険に加入することでカバーできますが、死亡事故や後遺障害が残存するような場合に、人身傷害補償保険ではカバーしきれないリスクを更にカバーできる保険として、無保険車傷害保険は有用です

(6)車両保険

車両保険は、自分の車が事故等で損害を受けた場合に、修理費などを補償してもらう保険です。事故の相手の車両などに対する補償は対物賠償保険で賄われるので、とにかく車両保険は、自分の車のための保険という位置付けで加入するものです

車同士の事故に関わらず、車両の損傷を伴った様々なケースで使用が可能と思われますが、保険会社の車両保険は、ほぼ全てのケースに対応できるいわゆる一般型と、適用できるケースを限定することで保険料を抑えられるいわゆるエコノミー型とがあるのが一般的です。適用できるケースが限定される場合にどのケースが適用できるか、またどのケースは適用できないかは保険会社によって様々です。

 車両の損傷額の概念 

この点は対物賠償においても大きく関係する部分ですが、車両の損傷額の決定については、修理額時価額の2つの金額が大きく関係します。

<時価額とは?>
自動車(に限らず世の中の生産物)は、新品の状態から経年や使用に伴って消耗し、それに伴い物自体の価値が下落していくと考えられます。よって、自動車自体の価値は、新品の状態(初年度登録時点)からの年数の経過や状態などを元に決められます。このように、車両の新品価格から、経年や使用による消耗分を差し引いて算出した価格のことを時価額と言います

単純に言うなれば、時価額は、現時点で同等の車両を入手した場合にかかるお金を表しています。仮に事故車両の価格について、修理額 > 時価額となった場合、簡単に言えば修理するより同等のものを再度購入した方が安く済むことになります。
これらの考え方を基本とし、車両の損傷額の決定にあたっては、以下のような取扱いがなされます。

  • 時価額 > 修理額 の場合…修理額が損害額となる
  • 修理額 > 時価額 の場合…時価額が損害額となる
    ⇒修理自体は可能だが修理額の方が高額のような状態を経済的全損といい、修理修復がそもそも不可能な状態を物理的全損といいます。

車両保険の補償上限金額は、原則として車両の価値そのものとなる訳です。新車購入の場合は、購入額そのものが上限金額となることについておよそ争いはないかと思いますが、中古車購入の場合には、時価額の関係から必ずしも購入額=補償上限金額とならない可能性があります。

 免責額の設定 

補償上限金額については基本的に上記のように決定されますが、これに加えて「免責額」というものが存在します。免責額とは、車両保険から保険金を支払う際に控除される金額を指します。例えば、免責額が10万円となっている車両保険において、自損事故で40万円の修理費がかかるために車両保険を利用しようとする場合、10万円は被保険者の自己負担となり、車両保険からは40万円ー10万円=30万円が支払われることになります。免責額の設定方法は、

  • 1回目の利用時と2回目以降の利用時での免責額をそれぞれ設定する方法
  • 常に一定額の免責額がかかるように設定する方法

の2パターンがあります。免責額をそれぞれ設定する方法の場合には、1回目より2回目の方が免責額が高くなることが基本です。免責額が全く発生しない「0円-0円」の設定も可能ですが、車両保険の保険料は免責額を高く設定した方が安くなります。なお、「2回目以降」というのは、あくまで車両保険の契約期間内の話を指します。決して、1度車両保険を利用したら、その先永久的に免責額が発生するという訳ではありません。

 自動車保険の保険料や使用による等級ダウンの仕組み 

よく、「自動車保険を利用すると等級が下がる」、「保険料が高くなる」という話を聞くかと思いますが、車両保険が交通事故損害賠償請求上でどのようなメリットを持つかを説明するにあたっては、保険料の算出方法や使用による等級ダウンの仕組みを先に説明することが必要不可欠です。

自動車保険では、事故の内容や回数に応じて、契約者毎に「等級」が設定されています。等級は1~2020段階が設定されており、等級ごとに保険料の割引率が変わる仕組みとなっています。なお、この割引率(正確には、等級によっては100%以上となる場合もある事から割増引率といいます)には、「無事故」の割増引率 「事故有」の割増引率 があります(適用の仕方は後程説明します)。

等級のアップダウンの仕組みは概ね以下の通りです。

  • 契約開始日から1年間事故がなかった(正確には自動車保険の使用がなかった)ときは1等級アップする
  • 自動車盗難、自然災害、いたずらや落書き・飛び石などによる破損といった現象により車両が損傷し、車両保険を使用した場合、1等級ダウンする(これらの事故を「1等級ダウン事故」といいます)
  • 人身事故(または物損事故)、当て逃げ被害、自損事故などにより対人(物)賠償保険や車両保険を使用した場合、3等級ダウンする(これらの事故を「3等級ダウン事故」といいます)

これに加え、「事故有係数適用期間」というものが関係してきます。これは、保険料の割引にあたって「事故有」の割増引率が適用される期間を指します。1等級ダウン事故及び3等級ダウン事故によって等級がダウンするとき、ダウンする数と同じ年数だけ事故有係数適用期間が増加します。事故有係数適用期間が残っている内は、割増引率については「事故有」の方が適用される仕組みとなります。

<例:20等級で「無事故」の割増引率適用中の契約者が3等級ダウン事故により自動車保険を使用した場合>

上図のように、3等級ダウン事故により自動車保険を使用した場合、等級は20等級⇒17等級となります。加えて、3年間の事故有係数適用期間が加わることにより、割増引率は「事故有」の方が適用されることとなります。事故有係数適用期間は年数の経過によって減っていきますので、3等級ダウン事故後に同様の事故が無ければ、3年後(つまり4年目)にはもとの保険料に戻ることになります。

なお、事故有係数適用期間中に等級ダウン事故を起こした場合には、さらに事故有係数適用期間が加算されることになりますが、適用期間の上限は6年と決まっています。ですから、例えば事故有係数適用期間が5年の契約者が3等級ダウン事故を起こし、自動車保険を使用した場合、本来は適用期間が5+3=8年となるところ、上限である6年までしか加算されないことになります。

 交通事故の損害賠償請求における車両保険の存在意義 

上記のように、自動車保険を使用する場合は、等級がダウンするほか割増引率も大きく変化するため、基本的には「自費で支払う方が安く済むか、保険を使用する方が安く済むか」という基準で判断することが必要となります。
車両の損傷額(免責額を控除したもの)が、車両保険を使用した場合の保険料の上昇額に比べて低額であれば、自己負担で修理等を行った方が良いでしょう。

なお、保険料の上昇に関わる等級ダウンは、一般的には事故の件数をベースに考えられます。言い方を変えると、自動車保険を利用して支払った保険金の額等ではなく、自動車保険を利用した事故が何件あったかという意味です。ですから、基本的には、1件の事故での保険の使用量を抑えたところで、保険料の上昇額には一切影響しません。自らの過失が大きく、相手方への賠償(人・物問わず)が予定される場合、自らの車両の修理を行うのであれば、車両保険も一緒に使用してしまった方がお得になります。

なお、基本補償及び特約には、等級に影響を与えるものと与えないものとがあります。先の「3等級ダウン事故」及び「1等級ダウン事故」と並んで、自動車保険の等級に影響を与えない事故を「ノーカウント事故」と言います。ノーカウント事故とは、人身傷害補償保険・搭乗者傷害保険など、等級に影響を与えないもののみを使用した事故を指します。ちなみに、弁護士費用特約のみを使用した場合もノーカウント事故扱いです。
一般の家庭が所有する車両の自動車保険は、通常「ノンフリート契約」と呼ばれる契約形態となります。自動車を10台以上保有する法人や個人事業主などが自動車保険に加入する場合の形態は「フリート契約」と呼ばれます。フリート契約の場合、保険料の割引率は前年に自動車保険からどれだけの保険金が支払われたかということが大きく影響し、この点がノンフリート契約と大きく異なる点です。フリート契約の場合は、「ノーカウント事故」という概念はありません。

交通事故の被害者側として、「保険を使う方が得か・使わない方が得か」という点でよくある例を提示したいと思います。

上記のような解決が予定されている場合、まず甲乙それぞれが相手方に請求できる物損額を算出してみます。

  • 甲の場合…20万円(修理費)×0.2(乙の責任割合)=4万円(甲の請求額)
  • 乙の場合…30万円(修理費)×0.8(甲の責任割合)=24万円(乙の請求額)

この時点で、乙が物損として負担しなければいけない額は、

4万円(甲の請求額)+6万円(乙自身の損害額の内、自己責任となる部分)=10万円

となります。基本的には、この10万円を基準として、自己負担とする方がいいのか・保険を使用する方がいいのかということを考えることになります。
なお、「個人賠償責任保険」の解説でも述べていますが、双方の損害を支払い合う場合、クロス払いと相殺払いの2種類の方法がある訳ですが、双方自動車の場合に生じる違いは、基本的に被害者側が対物賠償保険を使用するか否かという点のみです

上記の内容をご覧になってお分かりになるかと思いますが、相殺払いであったとしても、結局車両保険で賄うべき金額が増えることになるので、10万円という基準額は変わらないことになります。

自損事故など相手方がいない交通事故の場合は、自らの車両の損害額と、車両保険を使用した場合の保険料の上昇額とを比べればよい訳ですが、相手方が存在し、かつ自らにも過失がある交通事故の場合は、相手方への賠償も必要になる可能性が高くなりますので、その点も踏まえて保険を使用するかどうかを判断することが必要になります。
なお、この点と併せ、一度車両保険を使用したことによる免責額の発生についても考慮する必要があります。

(7)各種特約

ここからは、各種特約について説明していきたいと思いますが、交通事故の損害賠償請求においてあまり関係ない特約については簡易的な説明に留めたいと思います。

 ★弁護士費用特約

交通事故に関わる損害賠償請求等について、弁護士に依頼する場合の弁護士費用を保険会社が負担してくれるというものです。

基本的には、交通事故の被害者として民事上の損害賠償請求を行う場合に利用可能となる特約です。加害者であっても、過失が被害者側にもあり、その分の損害賠償請求を被害者に対して行うような場合は弁護士費用特約を使用の上代理人を就けることができますが。被害者からの請求を減額することが目的であったり加害者側に過失が100%あって請求が不可能であったりするような場合には、利用できないのが一般的ですが、一部の保険会社の商品では、そのような場合も利用できたり、加害事故の刑事事件の弁護にかかる弁護士費用などを補償してくれたりする場合もあるようです。
なお、自動車保険に附帯できる弁護士費用特約ではありますが、対象範囲として日常生活型自動車事故型とがあります。日常生活型で付帯している場合には、交通事故に限らず一般的な傷害事件や器物損壊に関わる損害賠償などで弁護士に依頼する場合の弁護士費用も対象とできるようです。

弁護士費用特約の詳しい内容は別ページで解説させていただいていますので、そちらをご覧ください。
⇒「弁護士費用特約はご存知ですか??

 ★運転者限定特約

契約車両の運転者を限定することで保険料が割引される特約です。保険会社によって限定できる範囲に多少の違いがありますが、一般的には

  1. 記名被保険者のみ
  2. 記名被保険者と記名被保険者の配偶者
  3. (1及び2に加え)記名被保険者及びその配偶者の同居の親族
  4. (1・2及び3に加えて)記名被保険者及びその配偶者の別居の未婚の子

という範囲に限定する方法があります。
運転者を限定した場合、対象以外の方が運転した際の交通事故については、当然ながら自動車保険が使用できなくなってしまいます。

似たような特約として、運転者の年齢条件を設けることで保険料を割り引く運転者年齢条件特約というものもあります。

 ★ファミリーバイク特約

自動車保険の記名被保険者又はその家族が125CC以下のミニバイクに乗る際、自動車保険の対人・対物賠償保険などが使用できる特約です。
ミニバイクを運転する場合であっても任意保険に加入した方が良いのが間違いありません。通常加入するとしたら、車両毎に加入することになります。
しかし、自動車保険の特約たるファミリーバイク特約を利用することで、以下のようなメリットが生まれます。

  • 記名被保険者及び家族のうち複数が運転する場合でも、1つの特約で補償ができる
    ⇒通常加入するとしたら、それぞれ任意保険に加入しないといけませんが、1つの特約で賄うことができるため保険料が節約できます
  • 125CC以下のミニバイクであれば、対象の指定は必要ない
    ⇒例えば、他人から借用したバイク(125CC以下)を運転する場合でも特約の補償対象となります
  • 自動車保険の年齢制限に影響されない
    ⇒自動車保険の適用年齢に制限をかけていても、ファミリーバイク特約には影響がありません(例えば、車両の運転者年齢を30歳以上としつつ、20歳大学生の子どもが原付バイクを運転する場合の補償が可能となります)
  • 保険を使っても等級に影響がない
    ファミリーバイク特約のみを使用する場合はノーカウント事故扱いとなり、翌年の等級には影響がありません。通常の任意のバイク保険の場合は、対人・対物賠償保険を使用すると自動車保険同様翌年の等級がダウンします。

なお、ファミリーバイク特約には通常、自損事故タイプ人身傷害タイプとがあるようです。両者の違いは、相手方のある事故において自らの怪我が特約で補償されるかどうかです。

上記の点も踏まえた上で、ファミリーバイク特約付帯時の注意点をいくつか述べたいと思います。

  • 自動付帯ではない
    ⇒特約の中には自動付帯されるものもありますが、ファミリーバイク特約は基本的に自動付帯ではありません。契約時に申告する必要があります。
  • 保険料が年毎に安くならない
    ⇒特約には等級制度がないため、無事故で1年間経過しても翌年の保険料が安くなることはありません。そのため、長期で契約する場合には、任意のバイク保険の方が等級による割引の関係でトータル的な保険料は安くなる可能性があります。
  • 搭乗者傷害・車両保険・ロードサービスが付保されない
    任意のバイク保険に加入する場合との違いとして、搭乗者傷害・車両保険・ロードサービスが付保されないのが基本のようです。

※なお、上記に述べた範囲や補償内容はあくまで一般的な内容となります。保険会社毎の商品によって細かな違いがある場合がありますので、詳細は必ずそれぞれの保険会社に確認するようにしてください。

 ★他車運転危険補償特約

簡単に言うと、他人から借りた車で事故を起こしてしまった場合に、車の持ち主の自動車保険ではなく、自分の自動車保険を使用できるという特約です。

例えば、友人の車を借りて運転中に事故を起こしてしまった場合、友人の自動車保険の運転者範囲が「限定無し」であれば、友人が加入する自動車保険を使用することも可能です。しかしながら、友人の自動車保険を使えば、友人の自動車保険の等級に影響を与え、保険料が上昇することになり、友人に迷惑をかけることになってしまいます。
しかし、この特約が付帯されていれば、自分の自動車保険を使用して補償や保険金の受取が可能となります。

なお、他車運転危険補償特約は、大抵の自動車保険に自動で付帯されているようです。ただし、適用条件等については何点か注意点がありますので、以下を参考にして下さい。

  • 自動車保険の運転者を限定していると、運転者によっては特約が適用されない場合がある
    ⇒他の注意点にも当てはまることですが、他車運転危険補償特約は、他人の車両を対象者の車両とみなすよう取り扱うものです。例えば、自分の自動車保険の運転者を本人・配偶者限定としている場合、同居の子どもが他人の車で事故を起こしても特約は適用されません。
  • 配偶者や同居の家族が所有又は、常時使用している車を借りて事故を起こした場合も特約が適用されない
    ⇒例えば、同居する子どもが親の所有または常時運転する車両を運転して事故を起こした場合、特約を適用することはできません。
  • レンタカーを運転して起きた事故の場合も特約の適用対象
    ⇒ただし、基本的にはレンタカー自体にかけられている自動車保険が優先されます。
  • 特約による補償範囲は、特約が付帯されている自動車保険の基本補償の範囲内
    ⇒例えば、自分が友人の車を運転して事故を起こし特約を適用させようとする場合、自分の自動車保険に車両保険が付保されていなければ、当然車両保険を使用することはできません。また、車両保険があったとしても、補償上限金額は自らの保険の範囲内となります。
  • その他、特約が適用できない場合
    他人の車を使用するにあたって正当な権利を有する者(所有者)の承諾を得ずに(すなわち無断で)運転した場合会社が所有する車を業務のために使用して事故を起こした場合駐車又は停車中に起きた事故である場合、などがあります。

 ★対物超過修理費用特約

事故の相手の車両の修理額が時価額を超える状態(経済的全損)でも、その差額分を補償するものです。
(6)車両保険」中の「車両の損傷額の概念」でも説明していますが、車両の修理費が車両の時価額を上回る状態を経済的全損といいます。対物上においては、経済的全損の場合、時価額を上回る修理費について損害賠償責任は発生しません
しかしながら、現実問題として同等の状態・グレードの車両を時価額で手に入れるというのはほぼ無理でしょう。また、車両の所有者からすれば、自分が乗っていた車の時価額があまりにも低額であったり、「修理したい」という気持ちがあっても時価額より高いばかりに補償がされないという状況があったりすることは、どうしても理不尽に感じるものであります。
そのような時、対物超過修理費用特約を適用すると、相手の車両の修理費が時価額を超えるような場合であっても、その差額を保険で補償することが可能となります。「法律上の損害賠償責任はないのに何故?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、上記のような感情のもつれからトラブルとなったり、示談がまとまらずに長期化するということも実情としてよくある話です。そのような場合、特約を使用して差額分を補償すれば、相手と揉めずに示談を完了させることができます。
なお、対物超過修理費用特約で対応できる額にも限度額があり、基本的には50万円まで(差額のみで)ですが、保険会社によっては無制限を選択できる場合もあるようです。ただし、特約を適用させるには被保険者自身の同意が必須となります

逆に言えば、被害者側として、相手側に時価額と修理費の差額を支払ってほしいと思う場合、相手の自動車保険に対物超過修理費用特約が付保されていれば、差額を支払ってもらえる余地が生まれる訳です

 ★人身傷害諸費用特約

交通事故の受傷により入院したり、重い後遺障害を負ったりした場合に必要となる費用を補償するものです。対象となる費用については以下のようなものがあります。

入院時人身傷害諸費用

  • ホームヘルパーや介護ヘルパーの雇入費用
    ⇒入院者(被害者)や入院者の付き添う方が家事・介護などを行う方である場合に、各種ヘルパーを雇う費用(1日辺りの限度額がある)
  • ベビーシッターの雇入費用や保育施設への預入費用
    ⇒入院者(被害者)や入院者の付き添う方が育児を行う方である場合に、シッターを雇ったり保育施設へ預け入れる費用(1日辺りの限度額がある)
  • ペットシッター雇入費用やペット施設預入費用
    ⇒入院者(被害者)や入院者の付き添う方がペットを飼っていたり、世話をする方である場合に、シッターを雇ったり施設に預け入れる費用(1日辺りの限度額がある)
  • 差額ベッド費用(1日辺りの限度額あり)
    ⇒入院時の病室代。集団病室から個室に移る場合の上昇分なども対象になる。
  • 転院移送費用
    ⇒別の病院へ転院するための交通費(転院回数や支払額に限度がある)

後遺障害時人身傷害諸費用

  • リハビリテーション訓練等費用
    ⇒症状固定後のリハビリにかかる費用
  • 福祉機器等取得費用
    ⇒後遺障害の発生に伴い必要となる福祉機器等の取得費用
  • 住宅改造費用
    ⇒障害に対応するためのバリアフリー改造費用

上記のような費用は、主観的に見れば補償されるべき損害や必要な費用であることは間違いありませんが、対相手方との話では、場合によってはすんなりと補償してくれなかったり、そもそも必要性が否定されたりということも決して珍しいことではありません。
人身傷害諸費用特約を付帯させることで自分の保険会社から上記のような諸費用を支払ってもらえるようになるため、相手方との間でトラブルとなった場合も安心です。

 ★無過失特約

交通事故において被害者側の過失がないなど一定の条件を満たす場合に、対人・対物賠償保険や車両保険を使用しても、ノーカウント事故として扱うというものです。基本的には、もらい事故で車両の損害を負った場合、等級を下げずに車両保険を使用できるものと思っていただければと思います。

無過失特約が有用となる時は主に、

  • 車両が全損扱いで、時価額に争いがある
  • 加害者が対物賠償保険に加入していない

場合などが考えられます。ただし、当然ですが被害者側が無過失であることが前提です
前者の場合ですが、物理的全損にしろ経済的全損にしろ、車両が全損となると相手側は車両の時価額までしか賠償義務を負わなくなる訳ですが、新車購入後まもない場合はともかくとして、相手側から提示される時価額に素直に納得いくケースは正直に言ってほとんど無いと言っても過言ではありません。
一方で、自分の車両保険の補償上限金額も、契約時の補償上限金額からスタートして、年数経過に伴う市場価値の下落を考慮し少しずつ減少していく訳ですが、車両保険における補償上限金額の方が相手側が提示する時価額より高額である場合があります。となると、車両保険を使用した方が、より高額な保険金がすんなり受け取れることになります。無過失特約が付帯されていれば、等級ダウンなく車両保険を使用できるため、スムーズに補償を受けることができます。
後者の場合ですが、加害者側が対物賠償保険を付けていない場合は、物損は加害者本人に直接請求しなければなりません。しかし、加害者本人が誠実に対応せず、損害を支払おうとしない場合がよくあります。そのような場合、無過失事故である場合に被害者の自動車保険に無過失特約が付いていれば、自らの車両保険から速やかに補償を受けることができます。

いずれにしても、無過失事故である場合にデメリット無しで車両保険を使用できる無過失特約は非常に有用です。

 ★全損時諸費用特約

事故によって車両が全損となった場合に廃車や買替時の諸費用分として保険金を支払ってくれるというものです。かかった実額という訳ではなく、車両保険の補償上限金額×10%にあたる保険金が一律で支払われる内容としている商品が多いようです(中には、保険金の下限を定めているところもあるようです)。

実際のところ、全損となった車両の廃車費用や買替費用としては様々な費目があります。

  • 廃車費用…レッカー費用、解体費用、永久抹消登録費用 など
  • 買替費用…税金(取得税、自動車税、重量税)、登録費用、車庫証明の代行費用 など

車両保険の補償上限金額には、全損時にかかるこれらの諸費用は考慮されていないため、特約を付けることでカバーが可能となります(ただし、自動付帯されていることが多いようです)。
なお、相手がある交通事故の場合は、これらの諸費用は相手に請求するのが基本です。車両が全損の場合は、時価額に加えて買替に伴う諸費用(もちろん廃車費用等も含みます)も請求できるのが通常です。それ故ですが、車両全損時諸費用特約は車両保険とセットで使用するのが基本となるので、使用時には等級ダウンが起こり得ます。

 ★新車特約

車両新価特約新車買替特約とも言い、車両の損害があった場合、特定の条件下で新車価格相当額をカバーしてくれるというものです。

車両保険部分でも説明していますが、車両保険における補償上限金額は、使用及び年数経過に伴う市場価値の低下と共に減少していきます。一般的には、1年に約20%ずつ減価償却するように取り扱われるため、例えば新車で購入し、1年目の補償上限金額を300万円とする車両保険に加入した場合、補償上限金額は、

300万円(1年目)⇒約240万円(2年目)⇒約190万円(3年目)・・・

と減少していきます。一般的な感覚としては、2年間使用して(3年目)車の価値がそこまで低くなるというのはにわかに信じ難いものかと思います。ですが、実際に3年目に全損事故に遭い車両保険を使用したとしても、(通常は)190万円しか保険金を受け取れません。仮に修理費が190万円を上回るとしても、190万円を超える部分は自己負担となってしまうのです。

新車特約は、このように年数を経過して補償上限金額が時価額相当になったとしても、車両保険において新車価格相当の保険金を補償してもらうことができます。具体的には、新車特約によって車両保険の補償上限金額と新車価格との差額をカバーしてくれます。

なお、以下の通り、加入条件や特約使用の条件があるため注意が必要です。

  • 保険の満期月起算や開始月起算など、初度登録からの期間で加入の可否が分かれる!
    ⇒加入条件は保険会社によって様々なようですが、新車価格相当の保険金を保証する特約ですので、初度登録から相当年数経ったり、時価額が相当低額になっている車両についてまで付帯させることはできません。なお、条件は保険会社毎様々のようですが、「保険満期月が初度登録年月の翌月から61ヶ月以内」とか、「保険開始日の月が契約車両の初度登録年月の翌日から起算して25ヶ月以内」といったものがあるようです。条件によって新古車・中古車の付帯がが可能かどうかは判断が分かれることになるので注意しましょう。
  • 適用できるのは「車両が全損になった場合」もしくは「修理費が新車価格相当額の50%以上となった場合」のどちらか!
    ⇒決して、軽微な損傷に対して即座に使用できる訳ではありません。事故によって車両が全損(経済的全損も含む)となるか、経済的全損でなくとも修理費が新車価格相当額の50%以上となる場合に加えて車体の本質的構造部分に著しい損害が生じている場合に限定されています。なお、一般的には車両盗難も全損扱いですが、新車特約の場合は対象外なので注意が必要です
  • 車両全損時諸費用特約と補償内容が重複する!
    ⇒新車特約には、大抵の場合再登録時諸費用保険金という保険金の支払いがセットになっているようです(保険会社によって名称が異なります)。内容としては新車買替時に新車価格の十数%程度が支払われるもので、車両全損時諸費用特約の補償と重複してしまいます。双方からの補償を受けることはできませんので、新車特約を付ける場合には車両全損時諸費用特約は不要です。
  • 車両保険とセットで使用するため、等級ダウンが起こり得る
    ⇒車両全損時諸費用特約でも説明していますが、車両保険とセットで使用することが基本となるため、等級ダウンによる保険料の上昇は覚悟しましょう。

何度か説明していますが、車両が全損扱いとなった場合、法律上、相手は車両の時価額の範囲内でしか賠償責任を負いません。新車相当額の賠償を要求したり、時価額を超える修理費の賠償を認めさせたりするのは難しいでしょう(後者の場合、相手が対物超過修理費用特約を付帯していれば、時価額を超える修理費を支払ってくれる可能性がありますが、一般的には時価額+50万円までとなります)。しかし、新車特約が適用できる案件であれば、新車価格相当の保険金を得ることが出来ます。時価額と新車価格の差額によっては、等級ダウンによる保険料の上昇以上に利益を得ることができます
新車購入時には忘れずに付帯させたい特約です。

 ★ロードサービス費用特約

事故等による走行困難や軽微なトラブルなどにおいて、保険会社提携のロードサービスメニューを利用できるものです。ロードサービス費用特約のみの使用であれば、等級への影響はないのが通常です。

保険会社によってサービスは様々かと思いますが、移動困難になった際の緊急措置を行った場合の費用も補償の対象となるようです。

特約の付帯は任意ですので、すでに他社のロードサービスに加入している場合は不要でしょう。

 ★レンタカー特約

事故で車両が修理中である場合、修理期間中の足としてレンタカー(代車)を借りた場合の費用を補償してくれるものです。そのような用途から代車費用特約とも言います。一般的には、車両保険の支払対象となる事故であれば適用されます。レンタカー特約のみを使用する場合は、自動車保険の等級への影響はありません。

交通事故の被害者の立場において、事故における代車の使用期間は、相手方保険会社との間でトラブルとなりやすい問題の1つです。交通事故における一般的な代車の使用期間は、修理もしくは買替にかかる期間として2週間から4週間とされるようです。起算点についての考え方は様々ですが、被害者に有利に取り扱ってくれるところは残念ながらあまり無いように思います。
相手側が主張する期間以上に代車が必要である場合に、自分の保険のレンタカー特約が有効となる場合があります。ただし、特約で利用できる期間の起算点も保険会社毎に様々で、主に以下の2タイプがあるようです。

  • 事故発生日の翌日から起算し1年以内(ただしレンタカーの利用開始日から30日以内)
  • 事故日、工場への入庫日または盗難届を警察に提出した日から30日間内

前者の場合は、事故発生日の翌日から1年以内という制限はあるものの、その期間内で利用開始した場合は最大で30日間利用が可能となります。例えば、相手側が代車使用期間として主張する終期から特約を利用すれば、追加で30日間は代車を利用できることになります。
一方後者の場合は、起算点がレンタカー(代車)の利用開始日ではないため、実質30日より短い期間しか対象とできない場合があります。いざという時のために、自分の保険における特約上の起算点は調べておくとよいでしょう。

3.まとめ

被害者の自分を守る保険が多くある!

以上、任意保険における基本補償と特約について、被害者の損害賠償請求においてどのようなメリットがあるかという視点も踏まえて解説いたしました。

保険というのは、もしもの場合に備えて加入するものです。自動車等の任意保険もその例外ではなく、人によっては、加入したものの一度も使用していないという場合もあるかもしれません。
踏み込んで言えば、任意保険の基本補償や特約の中には、相手への賠償のためのものはもちろん、自らを助けるためのものも多くあります。ここまで読んでいただいた方は、そのことを強く感じていただけたのではないかと思っております。

交通事故に遭い被害者となった場合、自らの損害が全て相手側から補償されれば問題はないかもしれませんが、そうはいかないのがほとんどです。様々な場面で見解が分かれ衝突し、ストレスを感じることも多くあります。決して被害者側の主張は間違っていないのに、加害者側の保険会社が理不尽な対応をするという場合もあります。そのような場合に、自分の保険に付いている補償や特約に救われることも多くあるのです
ぜひ、自らの自動車保険の補償を見直して、後悔しない選択をしていただきたいと思うところです。

弁護士に依頼すれば、基本補償や特約を利用した解決策もアドバイスできる!

交通事故案件を専門に取り扱う弁護士であれば、自動車保険による補償内容にも精通しています。中には、保険会社の担当者でも知らないような取り扱いもあり、真にお客様の利益を考えて様々な方針を打ち立てることができます。
また、保険の使用などに関わらず、被害者に有利な損害賠償請求を行う上では、事故直後の初動対応が非常に重要である場合があります。そのためには、事故に遭われて間もないころから弁護士によるサポートを入れた方が、お客様の利益を増やせる可能性も大きく上がるのです

交通事故被害でお悩みなら、ぜひ交通事故被害者専門の弁護士事務所である岡島法律事務所へ!

 
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