Q③-7:自分の保険を使用したことによる保険料の上昇分を加害者に請求できる?
Q:自分の車両の損害補填のために車両保険を使用しました。自分にも過失がある事故だったため、保険の等級がダウンし、保険料が上昇するという話を自分の保険会社から聞いてはいましたが、本来、事故に遭わなければ自分の保険を使用するということも無かったはずです。この保険料の上昇分を、加害者に請求することはできないのでしょうか。
A:残念ながら、請求は否定される可能性が高いです。理由は以下をご参照ください。
(前提知識):自分の自動車保険を使用すると等級が下がる!
自動車保険では、事故の内容や回数に応じて、契約者毎に「等級」が設定されています。等級は1~20の20段階が設定されており、等級ごとに保険料の割引率が変わる仕組みとなっています(上の等級ほど割引率が高くなっています)。
この割引率(正確には、等級によっては100%以上となる場合もあることから割増引率といいます)には、「無事故」の割増引率と「事故有」の割増引率があります。
等級のアップダウンの仕組みは概ね以下の通りです。
- 契約開始日から1年間事故がなかった(正確には自動車保険の使用が無かった)ときは1等級アップする
- 自動車盗難・自然災害・いたずらや落書き・飛び石などによる破損といった現象により車両が損傷し、車両保険を使用した場合、1等級ダウンする(これらの事故を「1等級ダウン事故」といいます)
- 人身事故(または物損事故)・当て逃げ被害・自損事故などにより対人(物)賠償保険や車両保険を使用した場合、3等級ダウンする(これらの事故を「3等級ダウン事故」といいます)
これに加え、「事故有係数適用期間」というものが関係してきます。これは、保険料の割引にあたって「事故有」の割増引率が適用される期間を指します。1等級ダウン事故及び3等級ダウン事故によって等級がダウンするとき、ダウンする数と同じ年数だけ事故有係数適用期間が増加します。事故有係数適用期間が残っている内は、割増引率については「事故有」の方が適用される仕組みとなります。
結論として、自動車保険の保険料上昇は、
- 等級がダウンすることによる割引率の減少
- 事故で保険を利用したことによる「事故有」の割増引率の適用
の2つが影響して起こることとなります。
※なお、基本補償及び特約には、等級に影響を与えるものと与えないものとがあります。先の「3等級ダウン事故」及び「1等級ダウン事故」と並んで、自動車保険の等級に影響を与えない事故を「ノーカウント事故」と言います。ノーカウント事故とは、人身傷害補償保険・搭乗者傷害保険など、等級に影響を与えないもののみを使用した事故を指します。ちなみに、弁護士費用特約のみを使用した場合もノーカウント事故扱いです。
※自動車保険に無過失特約が付いている場合、発生した事故について被保険者が無過失であれば、等級ダウン無しで車両保険を利用できます。
保険使用に伴う保険料の上昇分を加害者に請求できない理由
当初の答えの通り、保険料の上昇分を加害者に請求することは難しいと考えられます。その理由は、車両損害の補填の方法については、原則として被害者が自由に選択できるからとされています。
すなわち、その方法は主に、
- 相手に損害額分を請求する(車両保険を使用しない)
- 車両保険を使用し、自分の保険から補填してもらう
- 自分の保険も使わず、自己負担する
の3つとなりますが、車両保険を使用するか否かは、被害者が自由に選択できるものです。本来は、加害者が賠償するものですからね。
そのような、被害者の選択によって増加した保険料については、加害者は関知し得ない事柄であるため、それを加害者に負担させるべきとまでは考えられません。近時の判例においても、同様の理由から「上昇した保険料を加害者に負担させるのは相当ではない」という見解がほとんどです。
ちなみに、判例の中では、損害保険契約について以下の通り述べられています。
【東京地裁令和4年7月6日判決】
「…そして、保険契約は、交通事故等により保険契約者側が被った損害の補填又は保険契約者側が他者に与えた損害の賠償のための自衛手段として締結するものであり、保険料は自衛のためのコストとして保険契約者自身が負担すべきものであるから、年間保険料が増額されるリスクについても保険契約者が負担すべきである。」
通説の考え方は、「いくつか選択肢がある中で、車両保険を使用する選択肢を採ったのだとしたら、それに伴う保険料の上昇は、被害者自身の選択によって生じた損害であり、加害者に転嫁できるものではない。」というものです。
なお、本来加害者が負担すべき被害者の車両損害を、被害者の車両保険で賄った場合でも、加害者は車両損害の負担を免れるわけではありません。被害者の保険会社が車両損害分を支払ったことにより、加害者への車両損害の請求権は保険会社に移転し、保険会社がその分を加害者に請求していくことになります。