交通事故の過失割合の決まり方や考え方

交通事故が発生した際、大きな争点となり得るのが過失割合です。どちらにどれだけの過失があるか、はたまたどちらが加害者でどちらが被害者なのか、といったところを過失割合で決定する訳ですが、中には、「なぜこの事故で自分に過失があるのか」と感じる方も少なくありません。

そこで、この記事では、交通事故の過失割合がどのように決定されるのかなど、過失割合に関する実務を解説させていただきたいと思います。

0.目次

1.前提として、過失割合とは?
2.過失割合の決定方法
(1)事故状況を確認する
(2)過去の判例等を参照し、基本の過失割合を当てはめる
(3)過失割合の修正要素について確認する
3.過失割合の考え方において重要なこと
(1)被害者側が無過失となる事故はかなり限定的
(2)過失割合を決定する際の政策的配慮
4.過失割合の交渉を有利に進めるためには?
(1)基本の過失割合とそれに対応する修正要素をきちんと把握する
(2)ドライブレコーダーの映像や目撃証言など客観的な証拠を確保する
(3)警察の実況見分時にできるだけ正確に正直に状況を伝える
(4)判例を分析し、過去に実際に考慮された修正要素などを調べる
5.過失割合が交通事故の損害賠償に与える影響
(1)人身損害・物的損害共通の影響
(2)人身損害の過失分を自らの保険で賄える可能性がある?
(3)物的損害において保険を使用する場合の過失割合との関係
6.過失割合の交渉を弁護士に依頼するメリット
(1)過失割合の交渉に関する実務を熟知している
(2)修正要素を導くためのデータベースを所有している
(3)ドライブレコーダー映像の解析や工学鑑定等に関わる業者との連携
7.弁護士費用特約の使用で大きな恩恵を受けられる!
8.まとめ

1.前提として、過失割合とは?

過失割合というのは、1つの交通事故の発生について、当事者双方の責任割合を定めたものです。例えば、AとBの過失割合が「70対30」だった場合、交通事故の発生について、それぞれAに7割、Bに3割の責任があるということになります。過失割合は、合計を10として「7対3」と言うこともあれば、合計を100として「70対30」と言うこともありますが、例えば「75対25」のように5刻みで細分されることもあるので、基本的には合計を100として表記されることが多いように思います。

  • 事故証明書の甲乙欄 

人身事故でも物損事故でも、警察に通報して警察が現場検証等を行った場合、事故の発生を証明するものとして事故証明書が発行されます。そこには、当事者の住所や連絡先・車両情報・加入している自賠責保険会社等が記載されますが、事故証明書には当事者に「甲・乙・丙…」という表記が設けられます。一般的に、甲が過失の大きい当事者(加害者)乙が過失の小さい当事者(被害者)丙以降が同乗者とされる場合が多いのですが、交通事故証明書は、決して過失の有無やその程度を明らかにするものではないので、事故の内容ごとに詳しく判断していくことになります。また、警察は実況見分を行い各種資料を作成してくれますが、警察が過失割合を判断する事や、警察の見解がそのまま採用されることは基本的にありません

2.過失割合の決定方法

では、交通事故における過失割合はどのように決定されていくか、詳しく見ていきましょう。

(1)事故状況を確認する

まずは、事故状況を正確に把握するところから始まります。道路状況標識の有無道路の優先関係車両のスピード衝突位置などを明確にしていきます。客観的な要素は確定できるかと思いますが、主観的な要素について双方で主張が異なれば、その点が争点となり得ます。
なお、事故状況の確定に資するものとして、以下のものがあります。

  • ドライブレコーダーの映像
    ⇒事故発生当時の映像があれば、車両のスピードや信号の変わるタイミングなどがより正確に把握できます。
  • 警察の実況見分調書
    ⇒警察が当事者双方から事故当時の状況や位置関係などを聞き取り、図に表してくれます。実況見分当初の当事者の言い分や主張が形となって表れるので、双方の主張の証拠となり得ます。
  • 車両の損傷箇所の写真
    ⇒車両の損傷の状態によって、衝突の角度や、衝撃の程度が導き出される場合があります。もっとも、実際に検討する場合には、専門家による工学鑑定を利用する事がほとんどとなります。

(2)過去の判例等を参照し、基本の過失割合を当てはめる

明らかとなった事故状況について、過去の判例等を参照して、どのような過失割合で解決されたかを元に、基本の過失割合を確認していきます。
基本の過失割合は、「別冊判例タイムズNo.38」と呼ばれる、民事交通訴訟における過失割合の認定・判断基準を示した冊子を利用することが専らです。当該冊子には、過去の数多の判例を元とし、事故態様ごとの基本の過失割合が定められています。

事故態様ごとの基本過失割合の例 

信号のある交差点において、直進車(乙)と対向右折車(甲)が衝突
甲対乙80対20

一方が優先道路である交差点内で、直進車同士が出合い頭に衝突(乙が優先道路走行)
甲対乙90対10

片側2車線の道路で、進路変更車(甲)と後続直進車(乙)が衝突
甲対乙70対30

四輪車同士の事故でも、およそ60~70例程が記載されています。当事者の違いも考慮すれば300例以上が記載されているので、まずは、どの類型に当てはまるかを考え、基本の過失割合を確認していくことになります。

(3)過失割合の修正要素について確認する

加えて、各類型ごとに、過失割合の修正要素として考慮され得るものが載っています。修正要素というのは、各事故における状況や要素の内、当事者の過失分を有利あるいは不利にすべきと考えられるものを指します。

例えば、信号のある交差点で直進車(乙)と対向右折車(甲)が衝突した事故の場合、修正要素として以下のようなものが挙げられています。

  • 甲の既右折…+10
  • 乙の法50条違反の交差点進入…+10
  • 乙の15km以上の速度違反…+10
  • 乙の30km以上の速度違反…+20
  • 乙のその他の著しい過失…+10
  • 乙のその他の重過失…+20
  • 甲の徐行なし…+10
  • 甲の直近右折…+10
  • 甲の早回り右折…+5
  • 甲の大回り右折…+5
  • 甲の合図なし…+10
  • その他の著しい過失・重過失…+10

※「法50条違反の交差点進入」とは、道路交通法第50条において規定されている交差点内進入禁止の1つで、簡単に言うと、「前方の状況によって、交差点内で停止し交差道路の通行を妨害する恐れがある場合には、交差点内に進入してはいけない」というものです。つまり、右折車(甲)が右折しようとする際、対向車線が渋滞していて、交差点の終わり付近まで車両がいる状況にも関わらず、対向直進車(乙)が直進してきて衝突したという場合、基本の過失割合は甲対乙=80対20ですが、乙が法50条違反の交差点進入をしたとして10%の修正がなされる可能性があるということになります。

※「著しい過失」とは、「事故態様ごとに通常想定されている程度を超えるような過失」です。基本の過失割合には当事者双方の基本的な過失がすでに盛り込まれていることから、それを超えるような過失があって初めて修正要素として考慮されることになります。
例として以下のようなものが挙げられます。

  • 脇見運転等の著しい前方不注視
  • 著しいハンドル・ブレーキ操作不適切
  • 携帯電話やスマートフォンを使用しながらの運転
  • 概ね時速15km以上30km未満の速度違反
  • 酒気帯び運転

※「重過失」とは、「著しい過失」よりも更に重く、故意にも匹敵する重大な過失を指します。
例として以下のようなものが挙げられます。

  • 酒酔い運転
  • 居眠り運転
  • 無免許運転
  • 30km以上の速度違反
  • 病気や薬物等の影響で正常な運転ができない恐れがある状態

ただし、修正要素について網羅的に摘出するというのはおよそ不可能です。そのため、最終的には「その他の著しい過失(あるいは重過失)」に集約され検討されるようなかたちとなります。決して、事故における諸要素について、修正要素の一覧に無いから考慮できないという訳ではありませんまた、修正割合についても、記載されている数値が画一的に適用されるという訳ではありません

3.過失割合の考え方において重要なこと

(1)被害者側が無過失となる事故はかなり限定的

交通事故の被害者側の不満として一番多いのはやはり、「なぜ自分にも過失があると判断されてしまうのか」ということです。「自分は交通ルールをきちんと守って運転していたのに…」と思うことも少なくないでしょう。一方で、「双方が動いている最中の事故だと無過失となりにくい」という話を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。

事故態様毎の基本過失割合で被害者側が無過失となり得るのは、

  • 信号のある交差点において被害者側が青信号、加害者側が赤信号で進入し衝突した場合(加害者側の信号無視)
  • センターラインがある道路において、対向車線から加害車両がセンターラインをオーバーして被害車両と正面衝突した場合
  • 被害車両が駐停車中に加害車両が追突した場合

の3パターンのみです。(ただし、基本過失割合に限定しているので、修正要素を考慮した結果、被害者側の過失が0となるケースはあります)
すでに述べたように、過失割合は、事故の発生に対する当事者双方の責任割合を定めたものですが、この点については、「どうすれば事故の発生を防げたのか」という視点で考えてみることが重要だと思います。

例えば、右図のように、信号のある交差点において、青信号で横断歩道(自転車横断帯)を走行中の自転車と、同じく青信号で交差点を右折してきた自動車とが衝突したとしましょう。この場合の基本の過失割合は、自動車対自転車90対10と記載されており、自転車側に1割の過失が付いてしまいます。
もちろん、この事故の発生の「主たる」原因は、本来であれば自転車側が優先的に信号を渡ることが出来るはずであるところ、自動車側が右折時に横断中の自転車(場合によっては歩行者等)を確認せず、漫然と運転を行ったことにあります。しかし、一方で、自転車側が右折しようとしている自動車の接近に気付いた上でその動向を注視していれば、衝突を避けることができたかもしれません

道路交通法第36条第4項では、以下のような内容が定められています。

車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。

このような注意義務は、日本の道路を走行・通行する全ての車両に課せられているものですから、被害にあった自転車側にも求められるものであったと考える必要があります。
もちろん、中には理不尽な過失が付けられることも無い訳ではありませんし、そもそも、交通ルールを基本的に守っている方がなぜ守っていない方の不注意までカバーしなければいけないのかという思いもあるかと思います。ですが、例え故意ではなくとも、運転手が運転時の基本的な注意義務を怠る瞬間はどうしても訪れてしまいます。その時、理不尽ではありますが、被害者側にも僅かではあるものの、回避する義務があるということを忘れないでいただきたいと思います

(2)過失割合を決定する際の政策的配慮

信号のない同幅員の道路(一方に一時停止の規制有り)の交差点における出会い頭の衝突事故について、当事者が「四輪車×四輪車」、「四輪車×単車」、「四輪車×自転車」の3パターンの場合に過失割合がどのようになるかを比べてみます。

  • 乙が四輪車の場合
    ⇒甲対乙=80対20
  • 乙が単車の場合
    ⇒甲対乙=85対15
  • 乙が自転車の場合
    ⇒甲対乙=90対10

見て分かる通り、被害者が四輪車⇒単車⇒自転車となるに応じ、基本の過失割合は低くなっています。このような傾向は、当事者毎に課される道路走行時の責任の違いと、負うと予想される人身損害の程度から生じています。

当事者毎に課される道路走行時の責任の違い 

四輪車を運転する場合、単車を運転する場合、自転車を運転する場合では、道路走行時にそれぞれに課される責任の質は異なります。四輪車を運転する場合にはより危険が生じたり、危害を加えたりする可能性が高い訳ですから、走行時にもそれ相応の責任が課せられます。運転に際して年齢制限があったり、免許制となっていることからも分かるでしょう。それに比べれば、単車を運転する場合や自転車を運転する場合は、責任の程度は幾分か低くなると考えられることから、基本的には、常に四輪車の責任は重く見られることになります

歩行者の責任の考え方

過失割合」というのは、何度も言いますが事故の発生に対する当事者双方の責任割合を定めたものです。これは基本的に、自動車・単車・自転車という立場的にある程度対等な当事者同士の場合に用いられます。

しかし、例えば歩行者対自動車というような、一方が俗に言う交通弱者である場合、道路通行時にそれぞれに課される責任の質はいよいよ全く異なります。そうすると、質の異なる責任を対比して過失割合を導くという考え方はあまり馴染みません。

その場合には、被害者(歩行者)の過失(落ち度)を考え、それをパーセンテージとして表すことで損害額から減額するという方法を取ります。

当然ですが、道路通行時には、歩行者にも守るべきルールがありますよね(歩行者信号が青色の時に渡る横断歩道が付近にある場合には横断歩道を渡って道路を横断しなければならない斜めに横断してはならない、etc.)。そういったルールの順守の欠如が交通事故発生の機序の一部と考えられる場合には、割合的に損害額が減額されてしまうことになります。このような、被害者の落ち度を考慮した上で減額すべき損害賠償額のパーセンテージを「過失相殺率」と言います。

過失割合と何が違うのか?」と思う方も多いかと思いますが、本質的な意味が違います。例えば、とある事故について70対30という「過失割合」の場合、被害者の損害額の「過失相殺率」は30%ということになります。しかし、四輪車と歩行者の事故で、歩行者の「過失相殺率」が10%と認定されたとしても、当然に事故の責任割合たる「過失割合」が90対10になるということではありません。

どういった場合に何%分の減額が起こり得るか、ということについても、「別冊判例タイムズNo.38」に記載されています。

例えば、信号のある交差点付近で、横断歩道外を通行して道路を横断している歩行者と、交差点を右左折してきた四輪車が衝突したとしましょう。

左図は、付近の歩行者信号が青色の場合、右図は付近の歩行者信号が赤色の場合ですが、左右それぞれで歩行者の損害額は何%減額され得るでしょうか。(前提として、どちらも歩行者が横断歩道外を通行して道路を横断しているので、その点は基本的な過失と捉えられます。)

  • 左図の場合⇒歩行者の過失相殺率は10%
  • 右図の場合⇒歩行者の過失相殺率は70%

となります。このように、事故に際し歩行者側の落ち度がある場合には、それに応じて損害額は一定程度減額されることとなってしまいます。

政策的配慮のための3つの原則 

これらを踏まえた上で、過失割合や過失相殺率を決定する際の政策的配慮については、以下のような原則があります。

①被害者保護の原則 …弱者保護の観点から、被害者の利益を保護し、被害者に重大な過失がある場合のみ、損害賠償額が減額される。
②危険責任の原則 …危険な状況を作り出した者が損害賠償責任を負わなければならない。
優者危険負担の原則 …弱者保護の観点から、一般に優位にある者がより大きく責任を負担すべきである。(人⇒自転車⇒単車⇒四輪車の順に注意義務が重くなる)

これらによって、基本的な過失割合は決定されていきます。

同じ事故態様でも、被害者側が車両⇒単車⇒自転車と変わるにつれて責任割合が小さくなるのは、四輪車の責任をより重く見ることに加え、単車や自転車の運転手の方が怪我をしやすいという政策的配慮があるのです。

当然の話ですが、四輪車を運転する方々は、運転には大きな責任や義務があるということを決して忘れてはいけません

4.過失割合の交渉を有利に進めるためには?

(1)基本の過失割合とそれに対応する修正要素をきちんと把握する

まずは、事故態様に応じた基本の過失割合がいくつで、それに対しどのような修正要素があるのかを理解することが重要です。さらに言えば、基本の過失割合が、どのような事を考慮して決定されているのかを理解することも大切です。

3の(2)」で用いた信号のない同幅員の道路(一方に一時停止の規制有り)の交差点における出会い頭の衝突事故を改めて例に取ってみましょう。四輪車同士の場合の基本過失割合は、甲対乙=80対20とされています。

例えば、この時甲車が、一時停止の標識を完全に見落とし、一時停止することなくそのまま交差点内に進入してきたとしましょう。乙が仮に、「こちらが優先なのに、甲は一時停止をすることもなく交差点に進入してきた基本の過失割合からこちらに有利に修正されるべきだろう。」としても、それだけでは過失割合の修正要素とはなり得ません。なぜなら、基本過失割合には、甲の一時停止無視による進入がすでに考慮されているからです
このように、基本の過失割合において考慮されているものが何かをきちんと把握したうえで、それ以外の要素が自らの過失割合に有利に働き得るかを考えないといけません。

なお、このパターンの事故における過失割合とその修正要素は以下の通りとなっています。

まず、基本の過失割合自体が、甲乙の交差点進入時の速度等によって分かれます。交差点への進入及び通行に際しては、できる限り安全な速度と方法で進行する義務があり(道路交通法第36条4項)、これは一時停止標識が設置されていない側であったとしても求められるものです。ですから、乙に対しても、進入時及び通行時には、ある程度の徐行が求められます。仮に乙が減速して進入したにも関わらず、甲が一時停止はもちろん減速もせずに進入し衝突したような場合は、過失割合はより乙に有利に取り扱われる可能性が高くなります。一方、甲が一時停止し、減速して進入したものの、乙の速度や距離を誤って衝突したような場合は、乙も甲を具体的に認識することができ、乙にも相当程度の過失が認められるとして、過失割合は乙に不利に修正される可能性が高くなります。

(2)ドライブレコーダーの映像や目撃証言など客観的な証拠を確保する

ほぼ全ての事故類型において、修正要素として「著しい過失」及び「重過失」が記載されています。どういったものが著しい過失や重過失に当てはまるかはすでに述べていますが、客観的な証拠が無ければ主張が難しいものも多くあります。例えば、携帯電話やスマートフォンを操作しながらの運転(通称「ながら運転」)は、映像等で証拠が残っていなければ主張が非常に難しいでしょう。時速15km以上の速度違反を主張するような場合も、映像から走行速度を分析し、正確な速度を割り出すことが可能となりますが、当事者が自らの走行速度を正直に言う可能性は限りなく低いでしょう。
また、事故態様に争いがあるようなケースでは、目撃証言が有効になる場合があります。事故発生直後に居合わせた第三者の情報を控えておけば、有力な証言を得られる可能性もあります。

  • 映像の解析によって判明することもある

携帯電話やスマートフォンの操作の場合、映像にはその実物が映らない場合もかなり高いと思われますが、そのような時は、映像の解析を行うことで合理的に主張できる場合があります。また、交差点進入のタイミングについてシビアな争いがある場合でも、解析によって有利な結果がもたらされる可能性があります。

ドライブレコーダーの映像の特徴と解析方法
ドライブレコーダーの映像に限った話ではありませんが、世の中の映像は、静止画像を連続再生することで、人の目には連続した動きのある映像のように見えています。映像を構成する静止画像1枚を「1フレーム」と呼びますが、映像の滑らかさなどを表す単位として「フレームレート(fps)」というものを用います。これは、該当する映像について「1秒あたりで何枚の静止画像が用いられているか」ということを表しており、例えば30fpsであれば、1秒あたり30枚の静止画像が用いられているということが分かります。fpsの数値が少なければ、映像はよりカクカクするようになりますし、数値が多ければ、より映像は滑らかとなります。ドライブレコーダーの映像を専用のソフトなどで映像をフレーム化し、それらを細かく確認していくことで、車内の状況・運転手の顔の向き・車両速度などを分析することが可能となります。

ところで、ドライブレコーダー映像のfpsは一般的に10~30fpsと言われていますが、具体的にどのような違いが生じることになるでしょうか。
例えば、時速60kmで走行する車両のドライブレコーダ―映像をフレーム化するとしましょう。時速60kmは秒速約16.6mに変換できるため、1秒で16.6m進むことになります。もし、映像が10fpsである場合、1秒あたりで10枚の静止画像が用いられていることになるため、1枚の間には約1.66mの距離の差があることになります。つまり、1.66m間の情報は映像から読み取れないことになります。一方で、映像が30fpsである場合は、1秒あたり30枚の静止画像が用いられていることになるため、1枚の間は約0.55m(約55cm)まで狭まります
車両の走行速度が上がれば上がる程静止画像1枚の間の距離は広がっていきます。「肝心のシーンが撮れていなかった!!」ということにならないように、映像のフレームレートは高めが推奨されています。最近では、あおり運転などの悪質な運転を取り締まる風潮も高まっていることから、より高性能な60fpsのドライブレコーダーも店頭に並び始めているようです。

(3)警察の実況見分時にできるだけ正確に正直に状況を伝える

警察の実況見分調書は、警察が実際に現場検証し、その中で当事者から事情を聞き取った上で作成されます。特に、双方が相手を認識した位置や衝突した位置などは、当事者からの言い分を元に作成されるので、できるだけ正確にかつ正直に状況を伝えるようにしましょう。記載された情報はほぼ修正が効きませんので、不正確な情報を伝えてしまうと、自分にとって不利に働いてしまう可能性もあります。併せて、事故直後の相手の発言なども併せて警察に伝えておくと、場合によって有利に働く可能性もあります。

(4)判例を分析し、過去に実際に考慮された修正要素などを調べる

すでに述べている部分もありますが、判例タイムズ38に記載されている過失割合や修正要素は、過去の事例を積み重ねた上で、あくまで一般的な基準として記載されています。また、個別的な修正要素は、「その他の著しい過失(あるいは重過失)」として集約されてしまっているため、個別具体的な事情までを判断することは非常に難しいでしょう。
そのような場合は、同様の事故態様についての判例を探し、その判例の中ではどのように判示されたか(修正要素としての考慮はあったか無かったとしたらなぜ考慮が無かったのかあったとしてどのような割合で修正されたか)について粘り強く調べる必要があります。もし過去に考慮された実績があれば、主張は非常に有効となるのです。

5.過失割合が交通事故の損害賠償に与える影響

では、交通事故の過失割合は、損害賠償において具体的にどのような影響を及ぼすでしょうか。もちろん、人身損害及び物的損害両方に影響があることは間違いありませんが、過失割合をどこまで争うかどうかについては非常に重要な判断基準があります。

(1)人身損害・物的損害共通の影響

被害者自身にも過失がある場合、該当する過失分は損害が自己負担となってしまいます
人身損害で言えば、

  • 治療費(入院・通院・調剤等)
  • 付添費
  • 通院交通費
  • 休業損害
  • 慰謝料(傷害慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料)
  • 逸失利益(後遺障害、死亡)

などの項目がありますが、過失に応じて一律減額となります。例えば、むち打ちなどの怪我で約6ヶ月通院した場合では、治療費だけでも約40~50万円、傷害慰謝料は裁判基準(弁護士基準)で約89万円にもなり、トータルの損害額は概ね約130万円程度となりますが、過失が1割増える毎に、約13万円分の損害が自己負担となってしまうことになります。後遺障害が認定されたり、死亡事故であったりすればより損害額は増加しますので、過失割合が1割動くだけでも大きな影響を及ぼします。

物的損害で言えば、

  • 修理費あるいは時価額
  • レッカー費用
  • 代車費用
  • 評価損
  • 買替諸費用(時価額の賠償を受け車両を買い替える必要が生じた時)

などの項目がありますが、これらも同様に過失に応じて一律減額となります。

(2)人身損害の過失分を自らの保険で賄える可能性がある?

任意保険の基本補償(あるいは特約)の中に、人身傷害補償保険(特約)というものがあります(以下「人身傷害補償保険」に統一します)。人身傷害補償保険は、簡単に言えば交通事故における自らの人身損害を補償するものです。人身傷害補償保険は、被保険者の自損事故で負った人身損害も補償される被保険者の過失割合に関係なく補償されるといったメリットがありますが、被保険者にも過失があるような交通事故で、人身傷害補償保険からの補償を先に受け、差額を相手方の保険会社に請求するような場合、人身傷害補償保険から支払われた保険金を自らの過失分に充当することができます。そうすると、自分の保険と相手の保険両方からの保険金で自らの人身損害額満額を受け取ることができるようになるので、過失割合に対する許容範囲もある程度緩めることができる可能性があります。
この取り扱いについては非常に専門的な知識が要求されるため、取り扱いにはご注意ください。詳しく知りたい方は以下のリンク先をご参照ください。

 

 

 

 

(3)物的損害において保険を使用する場合の過失割合との関係

人身損害が伴う場合にはこの限りではありませんが、人身損害が無く物的損害のみが生じている事故(物損事故)の場合、多少の過失割合の動きでは経済的恩恵が生まれない場合があります。この点は、交通事故をスムーズに解決するためにも大切な話ですので、少々詳しめに説明します。

  • 物的損害の基本の補填方法 

交通事故によって財物(車両・携行品等)に損害が生じた場合、当事者はそれぞれ相手に対して過失分を賠償しなければなりません。賠償に関しては、保険対応することがほとんどかと思われますが、相手の物的損害を保険によって支払う場合は、対物賠償責任保険(通称:対物)が使用されます。例え自分が過失割合的に被害者であったとしても、自らにも過失がある事故の場合は、基本的に相手の物的損害を賠償する義務が生じてしまいます。一方、自らの物損(車両損害)についても一部は自己負担となってしまいますが、それを賄う保険として車両保険があります。

上記のような例を元にしてみると、乙の総負担額は20万円となりますが、その内訳と補償方法は以下のようになります。

  • 甲の損害額の20%(10万円
    対物賠償責任保険あるいは自己負担で支払う
  • 乙の損害額の20%(10万円
    車両保険あるいは自己負担で支払う

ここで大切なのは、自動車保険を使用したことによる保険料の上昇額実際の自己負担額のうち、どちらで対応した方が安く済むかという判断です。

自動車保険の保険料や使用による等級ダウンの仕組みについては、下記リンク先をご参照ください。(リンク先の『自動車保険の保険料や使用による等級ダウンの仕組み』をご覧ください)
「任意保険と損害賠償請求上のメリット」⇒「2.任意保険の種類や特約」⇒「(6)車両保険」

自動車保険を使用したことによる保険料の上昇額は、それによって賄われた保険金額によって変わることは原則としてなく、

  • 使用時点の等級
  • 適用されている割増引率(無事故か事故有か)
  • (事故有の場合は)事故有係数適用期間の残期間

によって決定されます。また、複数の基本補償等を使用したからといって上昇額が変わることもありません。

過失割合の変動によって変わるのは、当事者の自己負担額のみです。被害者の立場のみで考えますが、例のケースで言えば、過失割合80対20の場合の乙の自己負担額は合計20万円ですが、仮に過失割合が乙に不利に修正されれば乙の自己負担額は増加しますし、逆に過失割合が乙に有利に修正されれば乙の自己負担額は減少し、無過失となれば自己負担額は0になります。
しかし、自己負担すべき額がどのような額であれ、仮にそれを保険で賄うとしたら、同額の保険料の上昇が起こる事になります。

つまり、過失割合の修正による経済的な恩恵は、自己負担額が保険料の上昇額を下回って初めて生じることになります

例えば、現状80対20という提示がなされているとして、この提示に納得いかないという場合、仮に過失割合が90対10に修正されたとしてもなお保険を使用した方が得という状態であれば、経済的な面からは争う意義がないことになります。経済的な恩恵を受けられるラインまでの過失割合の修正が見込めるかどうかというところが大きな判断要素となります。

ただ、「そうはいうものの、この過失割合では感情的に納得がいかない!」と思う方もいらっしゃるでしょう。そのような場合はぜひ弁護士等への相談をご検討いただければと思いますが、基本的に被害者側が無過失となるような結果を導くのは非常に難しいこと一定の修正は可能であっても経済的な恩恵は無い場合があることなどを十分にご理解いただきたいと思います。

6.過失割合の交渉を弁護士に依頼するメリット

ここまで、交通事故における過失割合の決まり方や重要な考え方などを説明させていただきましたが、過失割合の交渉を弁護士に依頼するメリットについてまとめていきたいと思います。

(1)過失割合の交渉に関する実務を熟知している

ここまで述べたことでご理解いただけたのではないかと思いますが、過失割合の交渉については、なかなか感情的には解決できなかったり、主張できることができないことがあったりと、一般の方のみでの解決は非常に難しいものです。この点、弁護士は、交通事故事件についての取り扱い実績も豊富で、過失割合の交渉に関する実務も熟知しているため、的確な交渉や、よりスピーディーな解決を行うことができます。また、実務を熟知しているからこそ、場合によっては、意向に沿う解決ができないこと、お客様の受けられるメリットが少ないこと等、適切なアドバイスを行ったり、お客様の利益を第一に考えた説明を行ったりすることができます

(2)修正要素を導くためのデータベースを所有している

基本の過失割合で納得できない場合には、事故態様における有利な修正要素があるかどうかを探らなければいけませんし、その修正要素が実際に過去の裁判例でどのように評価されているかというところも調べなければいけません。しかし、一般の方では、そういった裁判例に触れること自体が難しく、また、数多の裁判例から該当する内容を発見するというのは、想像以上に時間と労力がかかるものです。この点、弁護士は、交通事故事件の裁判例を検索するためのツールや書籍なども多く抱えていますので、より妥当な解決の確率を上げることが可能です

(3)ドライブレコーダー映像の解析や工学鑑定等に関わる業者との連携

事故態様について争いがあったり、過失割合の修正要素を調査する必要があったりする場合は、ドライブレコーダー映像の解析や工学鑑定の依頼を行う必要もあります。交通事故事件を専門に取り扱う弁護士事務所であれば、解析や工学鑑定を行う業者との連携も豊富である場合が多いため、より依頼者にとって有利な結果をもたらしてくれる可能性があるでしょう

7.弁護士費用特約の使用で大きな恩恵を受けられる!

通常、交通事故事件の交渉などを弁護士に依頼する場合には、弁護士費用として着手金や報酬がかかります。一般的には、事件を通じて依頼者様が獲得できた金額等(経済的利益)に応じて報酬の額が決定しますが、着手金あるいは報酬の一部は、経済的利益に関わらず一定の額である場合が多いので、依頼者様の獲得した金額によっては、弁護士費用の方が多くかかってしまう場合もあります。過失割合の交渉が難航すれば裁判に移行せざるを得ない場合もありますが、裁判についても弁護士に依頼する場合には、追加の着手金などもかかってしまいます。

また、過失割合の交渉のために、先に述べたドライブレコーダー映像の解析や工学鑑定等を業者に依頼する際の費用も馬鹿にできません。数十万から百万以上となる場合がほとんどですので、経済的恩恵に反してそれ以上の費用がかかってしまうことにもなりかねないのです。

そのような時、自動車保険に付帯されている弁護士費用特約を使用して弁護士に交渉をご依頼いただくと、弁護士費用はもちろん、事件処理にあたってかかる実費などを保険会社が負担してくれます。つまり、実質的にお客様の持ち出し無しで弁護士に交渉等を依頼できるのです。「過失割合に納得いかないから弁護士に交渉を頼みたい!…でも、解決できたとしても弁護士費用の方が大きくかかってしまってしまうから依頼は難しいかも…。」という場合でも、弁護士費用特約が使用できれば、安心して弁護士に依頼する事ができます。
弁護士費用特約についてのより詳しい説明は、以下リンク先をご参照ください

 

 

 

8.まとめ

交通事故における過失割合は、解決にあたって争われやすいポイントのひとつです
被害者であるにも関わらず、相手側から自らの過失を指摘されるというのは非常に悔しいでしょうし、納得いかない部分も大きいでしょう。
しかしながら、交通事故事件解決の実務の世界で、過失割合がどのように決まるのかということを知っておかなければ、説得的な主張は困難です。途中で説明している通り、事故態様における相手の特定の行為がおかしいと思っても、それが基本の過失割合ですでに考慮されていたり、客観的な証拠が無いために主張が難しかったりする場合は多くあります。

弁護士にご相談やご依頼をいただければ、被害者の方が望む結果となるためにどのような手立てがあるか、どのような角度から主張が可能かなど、交通事故事件の専門家として皆様のために戦うことが可能です。ただし、当たり前ですが弁護士も人智を超えた存在ではありません。交通事故事件の解決の実務におけるあらゆるノウハウや経験は豊富ですが、望む主張が困難であるケースは一定数存在します。そのことを予めご理解いただきたいと思います。

そして、ここからは決して交通事故の過失割合に限った話ではありませんが、これもすでに述べた通り、交通事故の態様で被害者側が無過失と扱われるケースは非常に限定的です。裏を返せば、大抵の交通事故は、被害者側にも落ち度があると判断される訳です。これは、「被害者が一般的な交通ルールを守っていたから無過失だ」ということは決してありません。それこそ大抵の交通事故は、もっぱら加害者側の交通ルール違反によって生じますが、被害者側も、「そういう運転手がいるかもしれない」と慎重に考える必要があるのだと考えます。自らの身を守ることができるのは自分だけです交通事故そのものが起きてほしくないことのはずですから、今一度慎重な運転を心掛けていただきたいと思います

交通事故被害でお困りの方は、ぜひ交通事故被害者専門の岡島法律事務所へご相談ください。

 
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